2023年度 入学式 学長式辞
式 辞
このたび晴れて花園大学に入学された皆さん、入学おめでとうございます。花園大学の教職員を代表して心よりお祝い申し上げます。また、皆さんを支えてこられたご家族の方々、関係する皆様にもお祝いをお伝えしたいと思います。
皆さんは、COVID‐19のパンデミックをはじめ、さまざまな苦難に社会が直面する時代において、高校生活を送られ、また、入学者選抜に向かう準備をされてきました。その間、いろいろなご苦労があったことと思います。それらを乗り越え、この花園大学のキャンパスに立たれたことは素晴らしいことであると考えます。皆さんの努力に対し、心から敬意を表します。
花園大学の建学の精神は「禅的仏教精神による人格の陶冶」です。その目的は臨済宗の宗祖である臨済禅師が「随所に主と作れば、立処皆な真なり」と言われるように、どのような状況であっても主体的に行動できる自立性・自律性を養成することです。
昨年、花園大学は創立150周年を迎えました。花園大学は明治5年(1872年)妙心寺山内に「般若林」が創建されたことにより始まりました。まさに、明治4年に廃藩置県が行われ明治政府が名実ともに国民国家として確立したその翌年であり、「学制」が公布され、日本に近代的な学校制度が導入された年でもあります。「学制」が目的とするのは「人々自(みずか)ら其身を立て、其産(さん)を治め、其業(ぎょう)を昌(さかん)にする」こと、すなわち、「学制」でいう立身とは、建学の精神で謳っている自立性・自律性なのです。
花園大学は国連の「持続可能な開発目標(SDGs)」の基本的哲学である「誰一人取り残さない ―leave no one behind―」を基本に、学生一人ひとりを大切にしたていねいな教育に取り組んでいます。
政治学者の佐々木毅先生が論じているとおり「アメリカは伝統的に個人主義的な理念によって人種の差異を克服することに満々たる自信を示してきたわけであるが、やがて集団としてのマイノリティの権利を認め、差別を是正するために特別の措置(アファーマティブ・アクション)をとるよう」になる。そして、「今日では、社会構成の非均質性は社会的・経済的活力の源泉であるとも考えられ」ています。
日本においても、かつては同質性の高さが日本の生産性の高さの一因であるといわれていましたが、現在では、多様性(ダイバーシティー)が創造性・発展の源であると考えられています。
大学においても多様性が増しています。花園大学は多様性を一つの大学という組織の中に包摂し「誰一人取り残さない」活動を展開します。
次に、皆さんが大学生活を始めるにあたって、ぜひ心にとどめておいていただきたいことを申し上げます。
まず、「初心忘るべからず」です。今の気持ちを大切にし、よく覚えておいてください。4年後の自分に手紙を書いておいてもいいでしょう。なぜ、今ここにいるのか。何をしようと考えているのか。そして、4年後に今日の自分とその時の自分を比較し、4年間の学生生活を振り返ってください。大学における4年間は、自分をどこに導いていったか。
第二に、困ったことがあり思い悩むときは、周囲の人と対話を重ねてください。家族、友人、先輩、そして、花園大学の教職員。
周囲の人と話したとしても直接の答えは与えてくれないかもしれません。引き続き考え悩むかもしれません。しかしながら、対話をすることによって、自分の考えが整理できます。自分が何をしたいか。自分が悩んでいることが、本当はどのようなことなのか。
進化生物学者の長谷川眞理子先生がおっしゃるとおり、ヒトの他者理解は特別です。チンパンジーには、お互いの心の理解が伴いません。人間は協力行動の進化により文明を生みだし発展しました。他者理解の進化、共感の進化が人類の文化・社会を豊かなものとしていったのです。
周囲の人との対話は、皆さんの心の糧になり、成長の肥やしとなります。
第三に、「分かち合い」を大切にしてください。
「分かち合い」の原理は、財政学者の神野直彦先生が述べておられるとおり、「存在の必要性の相互確認」です。「どのような人間も社会にとって掛け替えのない存在であり、どのような人間でも相互にその存在を必要としているということを確認すること」です。悲しみや苦しみに暮れる人と、悲しみや苦しみを「分かち合」えば、悲しみや苦しみに暮れる人は、自分が他者にとって必要不可欠な存在であることを実感できます。社会のすべての構成員が、社会のすべての構成員を必要不可欠な存在であると相互確認し、社会の構成員が協力して実施する共同作業、それが「分かち合い」です。
最後に、皆さんのこれからの大学生活に熱いエールを送り、私の式辞を終えることとします。
令和5(2023)年4月4日
花園大学学長 磯田 文雄