2024年度学位記授与式を挙行しました
3月17日(月)、真人館メインアリーナにて「2024年度学位記授与式」を執り行いました。
本日をもちまして、263名の学部生、4名の院生の皆さんが卒業・修了を迎えました。
正門ではご家族や友人と共に記念撮影をする卒業生の姿が多く見うけられました。
卒業そして修了、誠におめでとうございます。
【 式辞 】
本日ここに学位記を受け取られた皆さん、卒業おめでとうございます。皆さんのこれまでの努力と学業への専心に敬意を表し、花園大学教職員を代表して、心よりお祝いを申し上げます。皆さんを励まし支えてくださったご家族の方々にも、感謝と祝福の意をお伝えしたいと思います。
この春、大学院を卒業する方は4名で、その内訳は修士課程文学研究科1名、修士課程社会福祉学研究科2名、博士後期課程文学研究科1名です。学部生は263名が卒業を迎え、その内訳は文学部97名、社会福祉学部166名です。本日、学位記を手にされ、ここに至るまでの苦労や仲間と共に経験した感動など、様々な思いを巡らせていることと思います。
卒業に当たり、あらためて花園大学について考えてみましょう。
花園大学は明治5(1872)年妙心寺山内に「般若林」が創建されたことにより始まりました。まさに、明治4年に廃藩置県が行われ明治政府が名実ともに国民国家として確立したその翌年であり、明治の三大改革が始まった年でもありました。
明治5年8月2日、学制の趣旨を宣言した太政官布告とともに「学制」が公布されました。明治の三大改革の一つとして日本に初めて近代的な学校制度が導入されたのです。太政官布告は、立身・治産・昌業のためには、人々すべてその身を修め、智を開き、才芸を長ずることが緊要であると論じています。「邑に不学の戸なく家に不学の人なからしめんことを期す」という大きな抱負のもと学制は開始されました。
一方、本学の建学の精神は「禅的仏教精神による人格の陶冶」です。その目的は臨済宗の宗祖である臨済禅師が「随処に主と作れば、立処皆な真なり」と言われるように、どの様な状況であっても主体的に行動できる、自立性・自律性を養成することです。すなわち、学制でいう立身とは、建学の精神で謳っている自立性・自律性なのです。
私の恩師であり政治思想史の学者である福田歓一先生は、社会が進歩するにつれて自由が失われてしまうことを恐れていました。平等か否かはわかりやすい。人々は平等でないことを知り、その是正を求めます。しかし、自由か否かはわかりにくい。平等のために自由が損なわれている事例が少なくありません。特に大衆民主主義社会では、平等の名のもとに自由が阻害されます。自由を失っていることに気が付かない場合がとても多いのです。
S.ズボフ(Shoshana Zuboff)は、デジタル化時代の資本主義を「監視資本主義」と命名し、GAFAM(Google, Amazon, Facebook, Apple, Microsoft)等支配的影響力を持つIT企業群が先導する監視資本主義の本質を鋭く剔出します。法学者の市橋克哉先生が解説するとおり、「監視資本主義は、人間の経験を、行動データに変換するための無料の原材料として一方的に要求する」。「さらに、人々の経験から取り出された膨大な「行動データ」が、AIを装備した生産過程に投入され、「予測製品」(prediction products、人間の行動を予測し、意識させないで後押しする商品〔ターゲット広告、データマイニング、ポケモンGO等〕)に加工され市場で売買される。
S.ズボフは、訴える。「監視資本主義の操作は、未来に対する権利の侵害だとわたしは考える。その権利は、個人の未来を創造し、計画し、約束し、建設する権利だ。それは自由意志にとっての必須の条件であり、さらに痛切なこととして、意志力の源なのだ。監視資本主義者はどうやって、それを人々から奪い取ったのだろう」。「監視資本主義は、新たな経済的欲求が推進する不正な力であり、社会規範を無視し、民主主義社会の構築に不可欠な個人の自律性と基本的権利を無効にしようとしている」。「いずれは人間性を犠牲にするだろう」。
ここに、トクヴィル(「アメリカンデモクラシー」)が描いた専制のイメージが思い出されます。
「この人々の上には一つの巨大な後見的権力が聳(そび)え立ち、それだけが彼らの享楽を保障し、生活の面倒をみる任に当たる。その権力は絶対的で事細かく、几帳面で用意周到、そして穏やかである。人々に成年に達する準備をさせることが目的であったならば、それは父権に似ていたであろう。だが、それは逆に人を決定的に子供のままにとどめることしか求めない」。
私たちは、自律した人間である。私たちは、監視資本主義のコントロールを離れ、人間としての尊厳を守り抜けるのであろうか。
このような時代に当たって皆さんにお願いしたいことは、Reflection (ふりかえり/省察)とResilience(しなやかさ)を大切にしていただきたいということである。
日々の活動、出来事についてReflection(ふりかえり/省察)を重ねていただきたい。例えば、教育学者佐藤学が論ずるように、教師や社会福祉士が専門職として活動するとき、「反省的実践家」として、クライアントともに複雑な問題の解決に参加するのであり,さまざまな専門家と協働し、多様な領域の知識を総合し、自らの経験の中で体得した認識を生かしながら、手探りで問題の解決に従事している。その活動の中心にあるのは、Reflection(ふりかえり/省察)である。Reflection (ふりかえり/省察)を重ねることで人として、専門職として成長していくのである。
Resilience(しなやかさ)も備えていただきたい。今、社会に巣立った若者が、簡単に「こわれてしまう」。管理職も含め多くの先輩職員、同僚教員が、若者を支える用意があるのに、その支援を得る前に職場を去ってしまうと残念がっている。問題なのは、新採職員の能力の問題ではない。周囲の人々を信頼し、その助力により成長していくことのできる関係性を築く力である。Resilience (しなやかさ)が求められている。
次に、困ったことがあったら書を読もう。学問をしよう。学問は研究を通してそれまでの命題を批判的に検討し、新しい枠組みを提案する普遍性を有しています。大学で学んだ書を引っ張り出して読み直してください。また、新しい学問を紐解いてください。学問がいつまでも皆さんを守ってくれることを祈っています。
最後に、「書くこと」を一生涯学び続けていただきたい。80字の短い文章でよいです。書くことは、思考をまとめることになります。「ふりかえり/省察」を行うことになります。企画し、実行し、評価し、再度、挑戦することになります。書くことは人間の活動の基本です。是非、書くことを学び続けてください。
最後に、私は人を信じます。特に若者の力を信じています。皆さん、苦難を恐れず、際限のない社会の「大海」へ漕ぎ出していってください。
卒業、誠におめでとうございます。
令和7(2025)年3月17日
花園大学学長 磯田 文雄
学位記授与式の様子
学位記授与
磯田文雄学長による式辞
横田南嶺総長による祝辞
総長表彰授与
卒業生代表による謝辞