人権教育研究センター

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入学式・人権講演

SNSと法律問題

倉橋 忍(弁護士・中本総合法律事務所)

皆さん、こんにちは。弁護士をしております倉橋と申します。今日1時間よろしくお願いいたします。まずもってご入学おめでとうございます。昨日雨でしたし、明日もどうも雨のようです。でも今日は本当にいいお天気です。そして暖かくて桜も満開。皆さんの前途洋洋の感じだと思います。
 さて今日は「SNSの法律問題」と題しまして講演をさせていただきます。まず始めに今日のお話の概略、それと狙いを説明させていただきたいと思います。

SNSの二面性(利便性と危険性)
 今日、ご説明させていただくことは皆さんがよくご存知のSNSについてです。そしてこれから説明させていただくことはSNSのリスク、いわば影の部分が中心になります。お配りしたレジュメに、影の部分にスポットをあてた事例を7つ挙げています。
 
レジュメ
⑴ サークルの新入生歓迎コンパに参加した大学生が、ビールジョッキで乾杯している様子を撮影しFacebookに投稿

⑵ マンガ好きの大学生が、所有するマンガの全ページをスマートフォンで撮影して動画投稿サイトに動画ファイルとしてアップロードし、twitterでアップロードを報告して、閲覧を呼びかけ
 
⑶ ホテルでアルバイト中の大学生が、一緒に宿泊したサッカー選手と人気モデルをこっそり撮影し、「○○と○○が極秘お泊まりデート!」などと、Facebookに投稿

⑷ 大学からの帰り道、大学生らが、線路に立ち入り、その様子を撮影し合い、twitterに投稿

⑸ コンビニでアルバイト中の大学生らが、アイスクリームの冷凍ケース内に入り、その様子を撮影し合い、Facebookに投稿
 
⑹ 就職活動中の大学生が、大学の友人が○○銀行の面接を受ける予定であることを知り、面接を妨害しようと考え、就職情報サイトに友人のIDとパスワードを使用してログインし、友人になりすまして、○○銀行に対し面接をキャンセルするメッセージを送信
 
 ⑺ 交際相手に振られてしまった大学生が、元交際相手からこれ以上連絡しないよう言われたにもかかわらず、復縁を迫るメッセージをSNSで1日100通送りつけた上、元交際相手からメッセージ受信をブロックされたことに腹を立て、交際中に撮影した元交際相手の裸の写真をtwitterに掲載

この7つのことについて具体的にどういう問題があるのか。皆さんがここで「大学生」と書いてある、そのような立場に立った場合、どのように社会は対応していくのかを説明させていただきたいと思います。
 今日のお話は、具体例に基づいて説明するので、たとえば「将来就職でマイナスになりますよ」とか「大学から処分を受けるかもしれませんよ」とか、場合によっては「逮捕されるかもしれません」などと言うことになります。でも、これは皆さんを怖がらせたり、心配させたりするためにやるのではありません。皆さんに楽しく大学生活を送っていただくための「転ばぬ先の杖」として説明するものです。ぜひそういう意味で今から説明する事例を頭の中にとどめて、どうなるのかを考えていただければと思います。
皆さんは今日から大学生です。大学生というのは中学生や高校生とは違って、社会人に近いもの、大人として見られます。数年たてば社会人になり、社会人としてのルールが適用され、当然ルールを理解されているものとして取り扱われます。今日はSNSという皆さんに身近なもの、これを取り扱わせていただいて、そのルールの一端を説明させていただきたいと思います。そして充実した楽しい大学生活を送っていただきたい。そういう思いを込めて、これから説明させていただきたいと思います。
近時、SNSのトラブルが多発しています。皆さんもいろいろと報道とかで聞かれていると思います。安易な考え方から発生するケース。そういうことも多々あると思います。しかしながらこういうトラブルは、あってはならないものですし、皆さんには特に注意をしていただかないといけないものです。
ところで、皆さんはスマートフォンをお持ちでしょうか?大体の方がお持ちでしょうか?お顔を見ておりますと大体お持ちのような気が致します。Facebookなどは利用されているでしょうか?あるいはLINEはどうでしょうか?あるいはツイッターは?SNSにつきましては、お配りした書面の1の「SNSとは」というところで少し説明しております。SNSとは「ソーシャル・ネットワーク・サービス」の略称であり、登録された利用者同士が交流できる会員制のWebサイトである。そしてFacebookやTwitter、LINEなど、これが典型的なものです。皆さんはかなり利用されていると思います。このようなSNSの機能とか有用性・利便性は十分理解されていると思います。ただSNSがもつ危険、リスクの部分はどうでしょうか。こういう点を考えられたことはあるでしょうか?お手元の書面の2のところに「SNSにおける主なリスク」として何点か指摘させていただきました。

“”つぶやいた””情報はコントロールできない
1つは、情報というのは発信してしまうと完全にはコントロールできないということです。次に、発信してしまうと完全には削除することができない。つまり、その情報を入手した第三者が、その情報を編集したりまとめたりすることができるということです。たとえば内容次第ではバカッターのようなサイトに編集されるようなこともあります。あるいは、「○○さんはこんな人」というサイトに、過去において皆さんがツィートしていたことが引用されて人目に晒される。こういう事態になるということは、皆さんどうでしょう、考えられたこと、ありますでしょうか?
今回この講演をするにあたって、SNSを結構利用している中学生の息子に、SNSの問題点について聞いてみました。こういう、情報が広がってコントロールできないということはある程度理解はしていました。どうにもできませんよと。しかしながら、突き詰めてどうなるのかということまでは考えていませんでしたね。仮にこういう事態になったとき、皆さんはどうしたいでしょうか。情報が勝手に流れている。「削除したい」と思われるのではないでしょうか。でも最初に言いましたように、一旦ネットに情報が流れてしまうと、大元、つまり最初の投稿を仮に消すことができても、それはどんどん転載されてしまっていて、もう消すことが非常に困難になってしまいます。近時、Yahoo!とかGoogleといった検索エンジンでは、ある程度検索結果から、こういった、問題ある情報を削除する方向で対策を進めています。しかし、限界があるので、今後も、仮に大元を消せたとしても、流れ出たものをコントロールすることは非常に難しいだろうと思います。

SNSは””匿名””ではない
次にもう1つのリスクは、誰が投稿したかは特定されるということです。これもぜひ理解していただきたいと思います。「名前が出ないのだから誰が投稿したかわからない」なんて、おそらく皆さんも思ってはいないと思います。まず、名前が出ていなくても過去の投稿内容から誰が投稿したのかわかる場合、これはかなりあります。またSNSを使用するときに記録されたIPアドレス、ここから特定されることもあります。たとえば弁護士が、SNSの絡んだ事件の依頼を受けて、投稿者を調べようとすれば、こういうやり方をすることがあります。
IPアドレスというのはインターネット上で利用しているパソコンや携帯を特定するための番号です。SNSに皆さんがログインするとSNSの運営会社はIPアドレスの情報を記録します。そこで弁護士はどうするかというとSNSの運営会社に対してログイン時に使用されたIPアドレスの情報の開示を求めます。そこでIPアドレスを確認することができます。
ただIPアドレスがわかっても、それは数字とか記号の羅列です。それだけではなんのことだかわかりません。そこで、次に、プロバイダに対して情報の開示を求めます。インターネットを使用しているパソコン等については、プロバイダと契約を結んで、そのサーバーを利用しています。IPアドレスを見れば、サーバーの情報から、どのプロバイダと契約しているかわかります。そのプロバイダに、記録されたIPアドレスの使用者についての情報開示を求めることで投稿者が判明する。こういう流れです。そういうやり方で弁護士は情報を入手します。。
そうすると、「たとえばネットカフェを利用した場合はわからないのではないか」と思われるかもしれません。「ネットカフェってみんな利用しますので仮にパソコンまで特定されても実際にそのパソコンを誰が利用していたのかわからない。」こう思われるかもしれません。たしかに、ネットカフェの場合、パソコンを誰が使っていたかはIPアドレスからだけではわかりません。しかし、後程具体例を挙げますが、例えば警察が投稿者を捜査する中で、単にそのネットカフェを見つけて終わりということはありません。ネットカフェで何時から何時まで誰が利用していたかを調べる形になります。そうすることによって、誰が利用していたのかということを特定することが可能になります。

問題事例の解説
このような理解を前提として事例を説明させていただきます。今度は3を見ていただけますでしょうか。1から7までの具体例を書かせていただいています。ここに書いてありますのは実際に起きた事例をもとに若干、抽象化したものです。誰もが、ついウッカリしてしまうような事例。あるいは好奇心とか周囲の関心を引きたいということで行き過ぎてしまった行為。あるいは嫉妬や恨みにかられてSNSを悪用する。そんなケースがこの1から7の中に整理してあります。

事例1 サークルで飲酒して・・・・・
事例問題1。サークルの新入生の歓迎会、これから皆さんにもこういう機会があり得ると思います。そのサークルの新入生歓迎会コンパに参加した大学生が、ビールジョッキで乾杯している様子を撮影してFacebookに投稿した。こういうケースです。そもそもまず何が問題になっているか。問題点をハッキリさせたいと思います。まずここで問題になってくるのが未成年の飲酒です。未成年飲酒がダメだということは皆さん当然ご存知だと思います。たとえば、誰かがコンビニでお酒を買っている場面を見たことがあると思います。その時には、「ここをタッチしてください」と店員さんに指示されていると思います。タッチすることで成人であるということをコンビニは確認している。未成年が飲酒することは、これはかなり古い大正時代に作られた法律ですが、その頃から禁止されています。アルコールを販売した業者、たとえばコンビニとかお酒の販売店は、未成年であることを知りながら販売すると処罰の対象になります。たとえばですが、自分の子の飲酒を知りながら止めなかったお父さん、お母さんも処罰の対象になっています。社会の目というのは、未成年の飲酒について厳しくなっています。そのことを前提にしてこの問題を考えてみたいと思います。
こういう投稿を見ることができる人、つまりFacebook上の「友だち」が引用して外部に流れるというケースを考えてもらえないでしょうか。皆さんは、Facebookの中だから安心して投稿すると考えられるかもしれませんが、やっぱり外に出る可能性がある。その場面を考えてください。一旦、外に流れたものは、消せずにずっとインターネット上に残っているものです。たとえば皆さんが4年後就職するという場面を想像してください。今から4年後、そういう時に残っている。どうなるでしょうか。4年後というよりは、就職活動を始める時期、ということで3年後かもしれませんね。そういう時に就職活動の採用担当者が、インターネット上に残っていた飲酒をしている動画や写真とかを見たらどう思うでしょうか。採用はどうなると思われますか?
この件についてアメリカでの調査報告があるので少し紹介します。採用担当者に「採用するにあたって採用候補者のSNSをチェックしますか?」。こういう質問をしました。それに対してどれぐらいのパーセントの人が「チェックする」と回答したと思いますか?なんと22%、約5分の1が採用するにあたってはSNSをチェックすると言っています。そして実際チェックしている採用担当者のさらに3分の1ぐらいは、コンテンツを見て、それが原因で採用の対象から外しています。採用の対象から除外した理由ですが、もちろんこれはアメリカなので日本とは事情が少し違いますが、第1位は飲酒とドラッグ服用に関する情報、これが41%。第2位が挑発的または不適切な情報あるいは画像。これが40%。こんな形で、ある過去の時点のことが将来の時点で、しかも非常に重要な、皆さんの将来に影響する時点で問題にされ、その結果、就職希望先から不採用とされるということが起こり得る。そういうリスクを秘めた事例だと思います。そして実は日本でも採用担当者によるSNS投稿のチェックが広まりつつあるということを理解していただきたいのです。
就職活動以外でも、未成年の学生の飲酒が発覚したとき、サークルとか大学も、社会から非常に厳しい目で見られ、非難されます。そうなると大学だって放置することはできません。その大学生本人の処分もありますし、あるいはサークル仲間への処分もあり得ます。サークルの解散や対外活動の禁止。そんなことも起こり得ます。そんなところまで行き着くつくことを理解していただきたいと思います。

事例2 漫画をスマートフォンで撮影して・・・・・
次に事例の2。マンガ好きの大学生が、購入したマンガの全ページをスマートフォンで撮影して動画投稿サイトに動画ファイルとしてアップロードし、そしてTwitterで「これアップロードしたよ。見てね」という形で閲覧を呼びかけた。こういう事例です。さて、これはどうでしょうか。別に問題ないと思いますか?「いや、それはヤバイんじゃないか?」と思われますか?マンガだからOKというわけにはいきません。マンガにも著作権があります。聞いたことのある言葉だと思いますが、「著作権」という権利があります。漫画家、出版社、こういう方々には当然に著作権という権利があって、その著作権をもっている人たちの了解がないと、それを使用することはできません。この事例では、マンガをアップロードして「見てちょうだい」という形でバーッと広めてしまった。これは、出版社や漫画家の著作権を侵害して、出版社や漫画家に損害を与える行為になると思います。
では、この大学生が皆さんだった場合、どんな形で責任を追求されるでしょうか。1つは、漫画家、あるいは出版社に損害を与えたということで、損害賠償つまり「損害分をお金で払ってくれ」ということになりかねません。いくらぐらいになると思いますか?どれぐらいの損害か。アップロードされたマンガを読んだ人は、おそらくそのマンガは買いません。そうなると、損害というのは、おおざっぱに言って、買われなくなったマンガ分の代金であろうと考えることができそうです。。「少年ジャンプ」って一冊260円かな。「サンデー」が270円、「マガジン」が260円でした。そこから印刷代等の経費を削除して、たとえば半分くらいが買ってもらえなかったマンガ一冊あたりの損害だとしたら130円ぐらい。10万回再生され、10万冊のマンガが売れなかったとしたら、損害額はなんと1300万円になる。1つの行為がそれだけ大きなところまでいきかねない。人気漫画の場合は大変だと思います。それこそ100万回単位です。そうなるとそれこそ1億円を超えてしまうという、考えられない金額になっていきます。もちろん、この損害というのは実際の裁判ではもっと細かい計算をしたりするので、お話した事がそのまま当てはまるわけではありません。ただ1つの目安として考えるにあたっては参考になる数字だと思います。
ではなんとか損害を賠償しました。それで終わりでしょうか。どうでしょう。そうはいきません。著作権法違反は刑事事件にもなり得ます。この事例の元になった事件では14歳の少年が行っています。その事件を紹介させていただきます。14歳の少年が約2か月半にわたってマンガ雑誌「少年ジャンプ」に掲載された「銀魂」「ワンピース」、それから「少年サンデー」に掲載された「メジャー」、これをカメラで撮影して動画サイトに投稿したというケースです。そしてTwitterで「動画サイトにのっけたよー」と知らせたというケース。この動画の再生回数は、なんと合計800万回。著作権法違反で警察が捜査をして、集英社とか小学館とかの出版社そして漫画家の方々が告訴をした。警察は少年を検挙しました。最終的に少年は保護観察処分という形になりました。多分、本人にとってはそんな大きな問題になるとは思わずやったのかもしれませんが、警察沙汰まで至ってしましました。その結果の重大性をご理解いただけたらと思います。

事例3 アルバイトで宿泊客を撮影して・・・・・
次に3つめの事例。アルバイト中の大学生が、アルバイト先のホテルに一緒に宿泊にきたサッカー選手と人気モデルをこっそり撮影した。これもいかにもありそうな話です。そして「○○さんが極秘お泊りデート!」というような内容をFacebookに投稿した。撮って載っけるというのは、ありそうな話ですが、ホテルのアルバイトをしていた人がやったというケースです。これも何が問題かわかりますか?
皆さんには人権があります。それと同じように有名人といっても人権があるわけです。そのひとつには肖像権=みだりに撮影されないという権利があります。あるいはプライバシー権=私生活を公開されない権利も持っています。皆さんも嫌ですよね。むやみに撮られたら嫌だ。皆さんもむやみに私生活を公開されたら嫌だ。有名人にも同じような権利があるわけです。有名人であるがゆえの制約はあるかもしれませんが、権利はあります。そうなると、この従業員、ホテルのアルバイトがやったことというのは、サッカー選手と人気モデルの人権を侵害する行為であるということになります。その結果、当然、損害賠償というように流れていく。これは自然な流れですね。
さらにここで、もう少し考えないといけない問題があります。アルバイト先との関係です。皆さんもこれから大学に入って、もちろん勉強に、クラブに、そしてアルバイトもされると思います。社会勉強の一環としてもされると思います。では、アルバイト先との関係、この場合どうなるでしょうか。このようにFacebookに投稿した。これがまたFacebookですので絶対にそこで止まるということはありません。外部に流れていく可能性があるわけです。流出したことが社会に明らかになればアルバイト先は一体どういう行動に出ると思われますか?ぜひ考えていただきたいのですが、アルバイト先は「なんで、そんなアルバイトを雇ってんねん。ちゃんと教育しとるのか」と責め立てられます。「こんなホテルには泊まれない」とも言われるでしょうね。そうするとアルバイト先としては謝罪文を出さなくてはいけない。よく皆さんもテレビでみかけますように、社長が「すいません」と謝らないといけない。そんなことになりかねない。さぁ、そのホテルはどうするでしょうか。それだけのダメージを受けるわけです。そのままでは済みません。そうするとホテルとしては、アルバイトは当然クビにします。さらに「損害どうしてくれるの」と言ってきますよね。これだけの謝罪をし、これだけ批判され、これだけの人間を使って対応した。さぁ、この責任をどうしてくれるんだ。その賠償。つまりその有名なサッカー選手からの請求だけでなく、ホテルからの請求にも応じなければならない、こういう事態になりかねません。結構金額は大きくなるのではないかと私は思います。
その他の事例
こういうケースは多いです。たとえばスポーツ用品を販売しているお店の従業員が起こした事件を少し追加して説明します。今から4年前のケースですが、プロサッカー選手が婚約者と来店した。それを見た社員の個人のアカウントから、「そういえば今日○○さんが来ましたよ」と投稿しました。いかにも「見たよー。みんなー」って感じでやったのでしょうね。「○○さんが来た。×××を具現化したような女と一緒に来てて、何かおなか大きいような感じがしたけど、結婚してんの?」と、こんな感じの投稿をつぶやいたということです。このツイートが他の掲示板に転載されて、この社員に対する批判が当然、相次ぎました。それから、過去のツイート履歴から、本人の氏名がインターネット上に明らかにされた。そこから、他のSNSなどに掲載されていた個人情報、本人とその家族の写真、これがネット上から集められて晒される。こんなことになりました。当然そのお店はツイートの対象だった契約選手と所属チームに対して「申し訳ない」と報告をして謝罪をします。公式の謝罪報告文も出しています。この報告文によればツイートした従業員に対して事実関係をちゃんと調査をしている。そして会社の規定にしたがって厳正な処分を検討する。こういう形で出しております。こういう事件、これが結構、今、起きています。
3つほど説明してきましたが、どうでしょう皆さん。「そんなケースなんてあり得るの?自分はそんなことしぃひんわ」そういう思いでしょうか。それとも「いや、そんなん、考えてへんかったわ」という感じでしょうか。「そんな、アホなこと」でしょうか。ただ現実にこういうことが起こっているということ。それはぜひ記憶に留めていただきたいと思います。
これまでの事例は、どちらかというと「つい、うっかり」な事例でした。ダメですよ。ダメですけど、「つい、うっかり」やってしまったケースです。これから2つほど事例を説明しますが、これは好奇心とか周囲の関心を引きたいがために行ったケースです。これについて次、説明させていただきたいと思います。

事例4 線路へ立ち入って・・・・・
事例の4。大学からの帰り道、大学生らが電車の線路に立ち入りました。その仲間がその様子を撮影してTwitterに投稿した。線路に立ち入るということは、極めて危険です。これはわかっていただけると思います。そしてこのような行為は、まさに刑事事件の対象になってしまう。もちろん皆さん、そんなことされないと思うんですけども。このような事件が実は日本各地で頻繁に起こっています。
少し事例を説明しますね。本当に頻繁に起こっているんです。1件起きれば、何か、2件、3件と続けて起きています。1つは18歳の学生二人の、線路への立ち入り行為です。深夜に線路内に立ち入って寝そべる。それで写真を撮影。線路のところに寝ている写真を撮ってそれをTwitterでつぶやいた。この学生は軽犯罪法違反で警察に逮捕されて、家庭裁判所へ送致となっています。
次に九州でも高校生二人が線路に立ち入り、その様子を撮影して投稿した。これも県警によって書類送検という形になっています。
近畿でもあります。高校生の線路立ち入りのケース。高校生が地下鉄の線路に立ち入って、その様子を撮影してTwitterに投稿した。これも県警が家庭裁判所に送致したという事件です。
普通ありえないだろうと思うことなんですが、何か1つ発生したら、それが2つ、3つと発生しています。このように、今読み上げたケースの場合は、逮捕されたり、家庭裁判所に送られたりしています。そういう結果になることもあり得るということです。紹介したケースは、実際の運行には支障は出ていません。しかし、もし運行に支障が出た場合、立ち入ることで、電車を停めたということになります。電車が停まって遅れて、それでみんなに迷惑をかける訳です。そうなった場合には、これは莫大な損害賠償を請求されかねません。そういう事例です。大学だって困ります。こんなことがわかったらどうしましょう。停学、退学という処分を下すことを真剣に検討しなければならない。そういう事例だと私は理解しております。

事例 5 アルバイトが冷凍庫の中に・・・・・
次に事例の5。コンビニでアルバイト中の大学生らがアイスクリームの冷凍ケース内に入り、その様子を仲間で撮影しあってFacebookに投稿した。こういう事例です。これは結構ニュースで報道されたので皆さんもご存知ではないかと思います。どんな問題が生じると思いますか?目立ちたいという気持ち自体はわからないでもないですが。冷凍庫の中に入って「やぁー!」と写真を撮るのですが、どんな問題があるか。別に冷凍庫の中に人が入っただけでなんの問題もないと考えていいのでしょうか?では、そもそも人が入ったケースの中にあるアイスクリームを買いたいと、皆さん、思われますか?そんな汚いもの、と思われるのではないかと思います。そもそもそんなコンビニを利用しようなんていう気になりますか?別のコンビニを使いたいなぁ、こうなるんじゃないでしょうか。こんなことが起こるとコンビニにクレームが殺到します。コンビニは販売したものを回収しないといけなくなるかもしれません。休業したり廃業したりというところまで追い込まれてしまいます。するとコンビニはどうしますか?さっきと同じです。「どうしてくれるねん」、やっぱりこうなりますよね。「損害を賠償しろ」と。商品を回収するのにどれぐらい費用がかかるでしょうか。あるいは、休業とか廃業とかになった時、売上はゼロですから「それを賠償してくれ」と言われたらどうなるでしょうか。やっぱりすごい金額になっていくでしょう。何千万円とかになっていくであろうと思われます。
それと、この行為は刑事事件になると考えてください。どういうことかというと、コンビニの営業を妨害しているわけです。休業とか廃業に追い込まれる、そういうことを考えると、あるいは商品を回収しないといけないとなると、コンビニの営業を妨害する行為になります。さらに冷凍庫はもう使えません。もう感覚的に使えないですよね。ですから器物損壊罪という罪に当たる行為でもあります。当然コンビニはそのアルバイトをクビにするでしょうし、大学からも処分、というのも、これもまた必至の状況になると思います。楽しいはずの大学生活が、一瞬でパー。なんか怖がらせてばっかりですが、こういうことをやってしまうと、そこまで行き着くのですね。
このコンビニの事例も実際の事例でもう少し詳しく紹介しましょう。ケースに入った男性が、どうなったかという部分なのですが、これは男性従業員が店内のアイスクリーム用冷凍庫の中に入って、その様子を友人に撮影させた。その写真をFacebookに投稿した。投稿が発覚したらどうなったかというと、そのコンビニは休業という形になりました。男性従業員は解雇。コンビニはまた難しい立場に追い込まれたわけです。実は、ほとんどのコンビニというのはフランチャイズ契約で運営しています。たとえばローソンとかセブンイレブンとかファミリーマートとかありますよね。ああいったコンビニは各グループの本部とフランチャイズ契約をしています。このコンビニはフランチャイズ契約を解消されてしまいました。するとどうなるかというと、他のコンビニ・グループとフランチャイズ契約を結ぶしかないのです。そうしないとやっていけない。コンビニというのは、24時間使えないといけませんから。さらに安定的に商品がずっとそろってないといけない。そういうのは、グループの本部の力を借りずに、自力でするなんてとてもできない。そうすると、最悪は廃業・倒産ということになる。こういうところまで追い込まれるというケースでした。

事例6 他人のIDを使って面接を・・・・・
これまではどちらかというと好奇心から目立ちたがりということでやったようなケースでした。これを2つほど事例説明してきました。もちろんどれも問題があるのですが、さらにひどい事例を紹介したいと思います。事例の6。これは就職活動中の大学生が、友人がある銀行の面接を受ける予定であるということを知りました。自分もその銀行を受けようと思っていたその大学生はどうしたかというと、面接を妨害するために就職情報サイトに友人のIDとパスワードを使ってログインをして、友人になりすましてその銀行に対して、面接をキャンセルするというメッセージを送った。他人のIDとパスワードを使用してログインする。当然、これは犯罪です。なぜこんなことしたんだろうというケースです。あとで事例をちょっと紹介しますが、このケースでは逮捕されています。大学院の学生ですよ。なんでこんなことをするのだというケースです。
前提として今、SNSがどういう形で就職活動に利用されているか、これも少し説明します。就職活動の情報サイトには、登録した会員専用のサイトとなっていて、会員間での情報交換や採用説明会・面接の申し込みができる、そういうものがあります。さらにFacebookでOB・OGに連絡をとって情報収集をしたり会社訪問したりすることができます。結構使われています。皆さんも就職活動の時には使われると思います。このケースで何が問題かというと、不正にアクセスしたということです。自分のではなく、他人のIDとパスワードを使用して、ということです。これは「不正アクセス」という犯罪になります。
実際の事例はどうだったか、これは大学院2年生が行なったことであります。自宅のパソコンから2回に渡って同じ大学院の研究室の女性院生のIDとパスワードを使用して就職情報サイトにログインしたというケースです。そしてその女性院生が予定していた会社の面接を勝手にキャンセルした。自分が受けたいと思っていた会社を、その女性院生が受けようとしていたということで「就活状況を知りたかった」ということでやったといっているらしいのですが、こんな簡単に、こういう犯罪行為をするのだろうかというケースです。このケースは県警がこの院生を逮捕した。不幸中の幸いだったのは面接を勝手にキャンセルされた女性院生が、なんとかまた面接ができて、キャンセルの部分は問題にならなかったことです。しかし、本人は当然逮捕です。同じようなケースがもう1件あります。私もこういうのは1件くらいかなとも思ったのですが、やっぱり複数、この手のケースがありました。
これは、大学3年生の男性で、自宅のパソコンからインターネット就職情報サイト「リクナビ」ですね、同じ大学に通う学生のパスワードを使用してアクセスして、このサイトの掲示板に学生を中傷する書き込みをしたというケースです。これも、この学生は逮捕されました。これらの事例はいずれも20歳以上ですので実名報道されています。

事例7 元交際相手に100通以上・・・・・
最後に7番。交際相手に振られてしまった大学生がその元交際相手から「これ以上連絡しないように」と言われたにもかかわらず、復縁をせまるメッセージをSNSで1日100通送りつけました。そうすると元交際相手はブロックしますよね。そのブロックしたことに今度は腹を立てて、交際中に撮影した元交際相手の裸の写真を自分のTwitterに掲載したというケースです。これもひどいケースです。このメッセージ送信については、多少法律がSNSに追いついていないところもありますが、結論としては、ストーカー規制法に違反し得る 。さらに、交際中に撮影した元交際相手の裸の写真を掲載することは、最近出来たリベンジポルノ防止法違反になります。損害賠償を請求されるだけではなく、当然、懲役にまで至り得るという行為であります。
ストーカーという言葉は皆さん結構聞かれたことがあるのではないでしょうか。ストーカーってどんなことかわかりますか?たとえば、つきまとったり、待ち伏せをしたり、あるいは交際を迫る。そういう行為がストーカーの対象になってきて、これが禁止されています。このケースは嫌がる相手に、「会いたくないわ」という相手に、それでも「会ってちょうだい」という形で1日100通ですか、メールを送っていること自体がストーカー規制法違反ということになり得ます。さらに元交際相手の裸の写真の掲載。普通はこんなことしないと思いますが、これがリベンジポルノ法違反であります。本人はもちろん処罰されます。でもそれ以上に、相手のことを考えたら、およそこんなことはしてはいけない。こんな写真が出たら、元交際相手は一体どうなるのか。自殺する人もいるでしょうし、あるいはそこまでいかなくても精神的に追い詰められる可能性がある。そういうことを考えると普通ありえないであろうと思いますが、現実にはこういう事件は発生しております。そして、刑事事件、民事事件という形になっています。

さいごに
事例の説明は以上で終わりです。聞いていただいてどうでしょうか。「何か、心配ばかりさせて、楽しい気持ちの新入生に、なんて気持ちにさせるんだ」と思われたかもしれません。でも、私としましては、最初に申し上げましたように楽しい学生生活を送っていただくために転ばぬ先の杖という形で、こういう問題点ばかりを説明させていただきました。ぜひ各事例につき、自分だったらどうするのか、どうしないのか。そういう形で、もう一度考えていただければと思います。
今回の講演では、SNSの問題を取り上げさせていただきました。しかし、社会のルールというのはそれだけではなく、もっと広くて多岐に渡っているものです。これから皆さん、勉強に、クラブに、楽しく生活していただく中で、本を読んだり、新聞を読んだりして、いろいろと一般常識、社会のルールについて考えていただければと思います。その上で、ぜひぜひ楽しい大学生活を満喫していただいて、有意義に過ごしていただきたいと思います。ご清聴ありがとうございました。