第29回花園大学人権週間 講演2
朝霧裕さん(シンガーソングライター・作家)
◆プロフィール◆
あさぎり・ゆう
1979年埼玉県生まれ。愛称は「ダッコ」。
筋肉の難病ウェルドニッヒ・ホフマン症のため,車イスの生活。
24時間の介助サポートを得て、さいたま市にひとり暮らし。
シンガーソングライターとして、コンサートやライブ活動、学校講演を行うかたわら、エッセーを執筆。「障害の有無、世代を問わず、誰もが輝ける社会」を夢として、書き、語り、歌う。
公式HP http://www.dacco.info
Facebook 朝霧 裕/Twitter @dacco3
著書 『バリアフリーのその先へ!-車いすの3.11-』(岩波書店)
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「つながりの真ん中に立ちたい!」
永野 愛
ウェルドニッヒ・ホフマン症(進行性脊髄性筋萎縮症)という病名、病状をどれだけの人が知っているでしょうか。正直、私は今回のこのインタビューを通して知ることとなりました。彼女の場合は、全身に力が入りにくく、握力もほとんどゼロの状態とのこと。しかし、”麻痺”はないので、例えばパソコンを打つことや軽い素材のコップ等であれば持つことが出来る。この素材が重たいものになると難しくなるそうです。また、肺活量もかなり少ないようですが、インタビューではそんなことを感じさせないような、勢いのある話し方でした。そこには”限られた時間を精一杯生きたい”という、進行性の病を持つ彼女だからこそ持つ熱い想いが繰り出しているのではないかと感じました。
いろんな人の真ん中に立ちたい
このインタビューで感じた、彼女が大事にしているものとは「人と人のつながり」でした。彼女は「いろんな人の”真ん中に立ちたい”のだ」と述べていました。私は初め、集団の中で先頭を切る”リーダー”のような役割の事を指していると思いました。しかし実際は、”大人や子どもの真ん中””障害者や健常者の真ん中”のように、何かと何かの”間”に自らがなり、繋ぎ目として活躍していきたいという想いでした。その手段として歌手活動や執筆活動をされています。
大きな団体に入って講演するわけでも、どこかの事務所に所属して歌手活動をするわけでもないのは、彼女が大事にしている”個人の力”というものがあるからです。個人の力は小さくて、出来ることも限られているかもしれません。しかし、個人だからこそできることもいっぱいあるはずです。そんなことを、身体の小さい彼女が実際に幅広く動き回り、伝えていくことが、一番説得力のある声だと感じました。
3.11のこと
著書 『バリアフリーのその先へ!-車いすの3.11-』(岩波書店)の中で気になったことを質問しました。それは震災の時「私を放って、介助者は逃げて」という言葉です。
障害のある方、介護を必要としている方はよくこのように、「自分はいいから、あなたが先に逃げなさい」とおっしゃる。しかし本当のところ覚悟はできていたのかというのが確かめてみたかった。彼女の応えは「いいえ」であった。しかし、”自分も生きたい”という気持ちも”2人いっぺんに死ぬなら1人でも多く生きてほしい”という気持ちもどちらもウソではないとのことでした。障害者の前に一人の人であるのだから、”生きたい”という感情があって当然なのに、「私はいいから・・・」と言ってしまう現状があります。それは何なのでしょうか。または、そう言わせてしまっている背後には何があるのでしょうか。そんなことを考えさせられます。
朝霧裕さん
彼女はとても明るく前向きで気さくな方です。それはいろんな物事に対してもですが、自分の障害についてもラフに話して下さいました。人は誰しも、他人より劣っていることにコンプレックスを抱くし、あまりそのことについて他人に話したがらないはずです。それなのに彼女は自らの事をたくさん、それもあまり暗い雰囲気にならずにラフに話しておられました。そのことの根底にあるものが何なのかを考えたとき、これまでの人生で数々の辛い経験の中にある小さな幸せを大事にしていることがあるように感じました。少しでも多くその幸せを感じようと思った時、暗く生きていくことではなく、明るく前向きに生きていくことが必要だと思われたように感じます。
人権週間の講演では、そんな朝霧裕さんの”当事者”として生の声を聴くこと・感じること・受け入れること、そしてそのことで私たち一人ひとりには何が出来るのかを考える機会になればと思います。
(ながの・あい=臨床心理学科四回生)