「はたらく」ということ ブラックバイト対処法
中村 和雄(弁護士)
こんにちは。弁護士の中村です。弁護士になって30年ちょっと。裁判所で労働事件を中心に活動してきました。「働く」とはどういうことか、みんな働くことは当然のことに思っていますが、必ずしもきちんと理解されていないところがあります。今日はアルバイト先で仕事を強制されるとか、大学生のみなさんにとって「働く」ことがどういうことかということを考えていきたいと思います。
少し前の流行語大賞にもあった「ブラック企業」「ブラックバイト」という言葉を聞かれたことがあると思います。「ホワイト」に対して「ブラック」と使われますが、いい企業、悪い企業、これから4年後に就職したり、今からアルバイトをする時、「ここにはいった方がいいよ」という企業と「ここは絶対やめておいた方がいい、ここにいったら大変なことになる」ということを考えるために「ブラック企業」とは何かを考えてみたいと思います。ブラック企業、ブラックバイトといわれる就職先はどういうところにあるか。飲食店、コンビニ、アパレルーメーカー、学習塾等々、裁判所で「ブラックバイト」先として登場します。学生のみなさんがアルバイトをするのは、ここに書かれているようなところが多い。ブラックバイトにひっかからないためにはどうしたらいいかを、いっしょに考えていきたいと思います。
学生アルバイトは労働者?
「働く」ということ、「労働」という言葉があります。「労働組合」とは最近、いわないんですね。「ユニオン」という。働く人たちを「労働者」といいます。労働者はどういう人たちのことをいうのか。みなさんの中には将来、お寺を継いで住職になる方もいると思います。「自分は労働者じゃない、関係ない」と思われている方もいると思いますが、実はお寺のお坊さんもかなりの方たちは労働者です。労働者というのは「他人に使われて働いている人たち。誰かに指示を受けて報酬をもらう働き方をする人たち」。みなさんが学生アルバイトをする時は、ほとんどすべて労働者です。「アルバイト」という言葉を使います。アルバイトというのは「働く」という意味です。ワークと同じ。今、日本で使われているアルバイトというのは学生など他に本業があり、その人が別の機会に本来の学業や仕事とは別に仕事をすることを「アルバイト」と呼んでいます。法律では「アルバイト」という言葉は出てきません。時間が短く働く人、期間をつけられて働く人という枠組みはあるのですが、「アルバイト」という区別はありません。普通の労働者と同じようにアルバイトもまた労働者として保護されていることをまず、ご理解ください。
学生アルバイトもアルバイト先と労働契約を締結
日本に労働法という法律があると思っている人、手を挙げてください。憲法がある、民法がある、刑法がある。同じく労働法があるはずだと。今、日本の中に労働法という法律はないんですが、でもみなさん、労働者には労働法令の適用があります。労働法という一つの学問の分野があり、法律の分野があって、その中に労働基準法があり、労働組合法があり、労働関係調整法があり、労働者派遣法があり、労働契約法がある。労働者に関する法律は労働者みんなに適用になることを頭に入れておいてください。
労働者の人たちは法律でどのように規制されているか、保護されているのでしょうか。まずアルバイトをすること、労働することは「契約」です。ものを買う、店にいって夕飯を食べる、お金を払って注文する。スーパーにいってリンゴを買う。これも契約です。売買契約あるいはサービス提供契約です。それと同じで仕事をすること、アルバイトをすることも契約です。契約とはアルバイトする人、働く人と働かせる人が約束をする。両当事者、使用者と労働者が約束し、それに基づいて仕事をするのがアルバイト、労働することです。どんな条件で仕事をするか、仕事をさせるのか、賃金の問題、どういう時間で働くのか、どんな時、残業しないといけないのかを一つひとつきちんと決めておくことが重要になります。法律にもありますが、仕事をさせる時にはどういう労働条件で働かせるか、それを仕事をさせる前に決め、そのことを文書にして仕事をしてもらう人に示さないといけない。これを「労働条件明示書」といいます。みなさんがアルバイト先を探して「ここがいいな」と決める時はアルバイトの条件、何時から何時まで働き、いくらもらえて、試験がある時は試験を優先してもらうとかを確認して仕事の約束をしないと大変なことになる。日本の使用者の中には「労働条件明示書」をちゃんと出してくれないところがたくさんあります。法律で決まっているから「労働条件を紙でください」といってください。両当事者間の契約、「意思表示の合致」といいますが、使用者と労働者が約束をして仕事をする。契約書をつくらないといけない。労働契約書をつくるのが本来の姿です。「俺を信頼しろ、使用者のいうことがわからないのか」となったりすると、その後、大きく違ってきます。「この企業、いいな」と思って何となく信頼して見かけ倒しで入ったら実はそこは「ブラック企業」だったということがあるということに気をつけてください。
賃金トラブル~賃金が求人票や契約と異なる
若い人たちが「ブラック企業」に入ってトラブルになり、どういうことが問題になるかを見ていきたいと思います。参考にしてもらえたらと思います。まず一番多いのは入る時に「いくらもらえるよ」といっていたのが実際に入ってみたら全然違う金額になっている。時給1000円のはずが給与明細をもらってみると800円しかもらえないということが、よくあります。どういう条件で賃金が決められているか、ちゃんと約束しておかないと大変なことになる。学生は大学のアルバイト斡旋のところを通っているなら文書があるはずです。ハローワークで見つけるなら文書はあります。しかし雑誌関係やネット関係で、いくらで働くのか、どういう条件になっているかを確認する、採用面接の時、確認してください。
賃金トラブル~賃金が最低賃金よりも安い
もう一つ最低賃金があります。都道府県ごとに、これ以上絶対出さないといけないという賃金額が決められています。京都府は1時間831円。831円は昼間働く時の料金です。夜間10時以降、朝5時までだったらもっと高くなります。日曜日とか休みに出てくると高くなる。時々、コンビニエンスストアで最低賃金より低いレベルで給与が払われている事例もあります。毎年、最低賃金が上がっていく。使用者はそれを忘れて最低賃金以下で働かせていることもあることを頭に入れておいてください。最低賃金はあくまで最低額です。これを下回ってはいけない。通常はそれを上回る金額が労働契約書、労働条件明示書に書かれていることを確認しておいてください。
賃金トラブル~賃金が仕事に見合わない
2つ目。よくあるミスマッチ。賃金が仕事に見合わない。一生懸命仕事をしているのに「君にはこれだけしか払わない」と。「最初に就職面接でいわれた時の話と全然違うじゃないか。こんなところ、やっていられない」と相談がきます。最近、話題になっている若い人たちの就職で、よくある事例が「固定残業代」。大学を卒業して採用されて「一月30万円出しますよ」と。魅力的ですよね。初任給20万円もいかない企業がほとんどの中で30万円。ここは労働者にとって優遇してくれる企業ではないかと思って就職します。朝から晩まで勤務する。本来は1日8時間が決められた限度ですが、もっと働かされる。私がこの間、かかわった事案は残業時間が月80時間でした。1日10時間、週5日働く。でも30万円以下の給与。これだけ残業したから40~50万円もらえると思ったんですね。でも実際の給料は30万円以下だった。いくら残業しても「残業分ははじめから組み込んでいる」といわれました。企業の契約書をよく見ると「固定残業代込みでいくら」と書いてある。基本給30万円と思っていたのが、実は基本給18万円と残業時間全部込みで30万円。こういう企業がいっぱいあります。この間、ハローワークという公共機関で「採用条件に出さないといけない」となりましたが、民間のネットや雑誌で出てくるアルバイト情報では固定残業代は区別されてないものがまだいっぱいあります。よく気をつけてください。賃金がちゃんと払われてないと思ったら、そういう書き方がされているのではないかと気をつけてみておく必要があると思います。
賃金トラブル~賃金が支払われない
働いたのに賃金がもらえない。企業が潰れたらしょうがないが、実は経営者が「ちょっと待て。もう少し仕事ぶり見てから給料を支払う」と平気でいいます。これは許されないことです。約束でちゃんと賃金を払わないといけないとなっているなら賃金はもらえるはずです。そういう場合は我慢しない。日本人全体の問題かどうかわかりませんが、賃金が払われなくても平気な人たちがいます。学生アルバイトの中でも「2年間くらい賃金もらっていません」という人がいました。それでも生活に余裕があるのか、親の脛を齧っているのか。契約してちゃんと約束したのにそれを守っていない。権利をきちんと使うこと、実行することが重要です。自分の権利が侵害されているとわかったら、それに対する手続きをとらないといけない。何カ月も賃金の支払いが滞る企業はまともな企業であるはずがありません。労働者のことをしっかり考えているはずがありません。こんなところで勤め続けることは決してプラスにならない。ぜひ早い段階で相談してください。
賃金トラブル~残業代が支払われない
残業代が払われないケース。残業代はどういう場合に払われるか。法律で労働時間を週40時間、1日8時間内と制限されています。人間の体は限界があります。ずっと、労働していたらすり減って病気になります。1日8時間働く、8時間睡眠をとり、8時間は自分の生活のために使う。今、ワークライフバランスがいわれています。仕事とそれ以外の生活、家事も含めてバランスよく生活しましょうと唱えられています。だけど、どうしても仕事をこの時期、やってもらわないといけないこともあります。そういう場合は労働組合や労働者代表と協定を結んで労働時間を延長することを認める。通常の働き方より賃金を余分に出しましょう。8時間を超えて仕事をするなら2割5分増し。休日だったら3割5分増し。しかし実際には決められた時間以上に働いていても残業代を出さないところが数多くある。アルバイトでも。シフトが決まって、それ以上働かされていても「君らがその時間の中でやるべき成果が上がらなかったからしょうがない。ダラダラ仕事をしたからだ。他の人はちゃんと時間内で仕事ができたじゃないか」と残業代を払わない企業があります。これは全部、違法です。決められた時間を超えて働いた時間について残業代を払わないといけない。これに違反すれば労働基準監督官は使用者を逮捕できる。検察官と同じように逮捕することまでできる違反です。罰金や懲役とか重い刑罰がつく。しかし「残業代を払わなくてもいいじゃないか」という風潮がまだ残っています。ここはしっかりと権利を守っていくことが重要です。残業代については法律の中で、どういう場合は何割増しで払う、何%プラスになると細かく決められています。ちゃんともらわないといけないものはもらおうということを身につけてもらいたいと思います。
労働時間トラブル~シフトが強要される
シフトが決められることがよくあります。一カ月の勤務予定表が勝手につくられる。希望を聞いてシフト割する企業もありますが、勝手に「あなたはここからここ」と決めてしまう。そもそも就職して採用されて労働条件が決められた時は9時~5時まで、アルバイトなら18時~22時までとなっていたはずなのに。いつのまにかシフトをずらされることがあります。これは約束違反です。約束違反に従う義務はない。経営者が「ここがちょっと足りないからこっちに入れたよ」「この日、混みそうなので人が足りないから君にも入ってもらった」。何となく「従わないといけないのかな」「今日はデートがあるんだけど」、もっと大切な時は「試験があるんだけど」、そういう時でも「もう決めたんだから働かないとだめだ」と思う学生が結構います。だけど約束してないじゃないですか。約束してないことに従うことに義務はない。デートを優先しても構いません。試験は受けないとだめです。勝手に経営者が決める権利はないことを、まず覚えておいてください。「シフトを変更してほしい」といわれたら大丈夫な時だったら了解したらいい。都合がある時は「私はできません」とはっきりという。みなさんがしっかりと発言することで無茶なことはいっちゃいけないと経営者もわかってくるのです。ぜひアルバイト先に、みなさんから伝えるようにしてもらいたい。
労働時間トラブル~定時になっても上がれない
5時まで、7時までと決められているのに「ちょっと人がいなくなると困るからもう少し残ってよ」「次の人がくるまでやってくれ」「誰々が今日、来ないと言っているので10時まで残ってくれ」とよく職場でいわれます。みなさんに全く問題がなくて、その分、残業代がもらえるなら残ってもいい、アルバイトを延長してもいい、日曜日出勤してもいいというなら、それを伝える。しかしできない時は「できない」とはっきりと言うこと。このことが重要です。労働時間も労働契約の内容です。強制はできません。学生は大学で学問をすること、勉強することが本来の目的ですから、それに差し障る時間の拘束を使用者がいってきても拒否する権利がある。契約書がある。そこをしっかり経営者に主張することが重要です。
休憩・休暇トラブル~休暇が取れない
休暇がとれないという事例も多い。学生アルバイトも通常の休暇だけでなく、有給休暇がとれます。有給休暇は半年以上勤務して通常週5日以上出ていれば10日間、勤務日数が少なければそれに比例して有給休暇日数が決まります。うちでゴロゴロ寝ていたい、旅行にいきたい、デートしたい。自由に休暇がとれる権利があります。毎年日数が11日、12日、20日と増えていきます。そういう権利が日本の中では半分も使われていない。「仕事が忙しいから有給休暇をとるのをやめよう」となる。労働者のみなさんが仕事漬けになっている。体を癒す、リフレッシュするために有給休暇をとるのは権利です。アルバイトでも有給休暇の権利がある。アルバイトの学生は有給休暇をなかなかとらない。アルバイトのみなさんにも「有給休暇がとれます。自由に申請しください」というところはホワイトな企業だと思います。聞いてみてください。
弁償・罰金トラブル~ノルマが強要される
ノルマが強制される。ネット社会では有名です。コンビニで働くと「恵方巻き何本の売上げ目標」とノルマとして課される。おでんも、よくありました。恵方巻き10本といわれて売れればいい。売れないとどうするか。アルバイト学生に全部押しつけられる。家にもって帰り、その分、給料から引かれる。郵便局でも年末にハガキ何枚、切手何枚と売らされる。本来、働くとことと関係ない、自分の企業の製品でも、それを買い取ることは約束にはない。それを強制する企業が横行しています。これは明らかに違法です。社会問題になりました。そういう職場で上司が「君のノルマだ、いくら売らないと帰れない」とか強要をすることがあれば、それは拒否してもらいたい。「こんな企業に残る必要はない」と伝えてください。
先程から労働者が働くこと、アルバイトとして働くことは契約だとお伝えしました。みなさんがどこかのレストランでアルバイトをして間違ってお皿を割った。経営者は「なんでミスするんだ、1枚1000円だ。10枚割ったから来月の給料から1万円引くぞ」という。「自分のミスで割ったから賠償しないといけない。アルバイト代から引かれる、しょうがない」となりそうですね。これは不法行為だ、債務不履行だといって自分のミスだから仕方がないと。でも基本的にほとんどの場合、このミスは賠償義務がありません。皿洗いの厨房で次から次にお皿が回ってきて全部完璧に仕上げることは大変です。時々ミスが起きるのはあたりまえのことです。「仕事の中で通常起きてしまうミスは経営者が負担すべきだ」と裁判の中でほぼ確定しています。通常起こりうるミスについて賠償責任はない。よほど悪質な、わざとやるとか普通の人なら起こりえない重大なミスをやった場合、ある程度の賠償責任はありますが、通常、アルバイト先で起こした軽微なミスは使用者が負担するものとなっています。現実には賠償を請求するアルバイト先が多いし、アルバイト代から控除されている事案がいっぱいあります。これは違法だと思ってください。間違いです。ちゃんと請求すれば取り返してもらうことができる事案だということも頭に入れておいてください。
弁償・罰金トラブル~制服、道具などの購入が強要される
制服、道具の購入。ちゃんとした企業はコンビニなどで制服を着ることが義務づけられていても制服を貸してくれる、給付してくれる。ところが中には制服を自分で買うことを強要する企業もあります。アルバイトの場合もあります。制服だけではなく、使う道具、調理器具とかを「自分で買え」と使用者が決めたものを買わせる、その分として代金を引いていく。これもおかしいことです。仕事に必要な道具は使用者が負担しないといけないことになっています。こういうことにひっかからないように注意しておくことが重要です。10年くらい前、京都で有名なタクシー会社の制服は森英恵さんのデザインでしたが、2着買うことが義務づけられていました。1着8万円。2着で16万円。4月の新入社員の給料は数万円しかありません。こういう企業があるということも意識してもらって、自分で買う必要はない。「これは買ってもらえないのですか?」と意見としていうことが重要です。
仕事内容トラブル~重い責任を背負わされる
最近、アルバイトのみなさんにシフトの作成まで義務づけているところもあります。おかしいですね。本来、別に正社員である責任者がいて仕事を手伝うのがアルバイトのはずなのに重い責任を負わされる。月曜日から土曜日までのシフト表をつくる責任をもたされる。どんなことが起こるか。学生が手配して火曜日、水曜日と入れていき、たまたま「クラブがあります、バイトがあります」とアルバイトが抜けたら、そこに誰かを入れないといけない。入れられないなら自分が入る。だんだん高じていきます。試験中はアルバイトをできませんと言われる。だから自分が試験を受けずにバイト先で仕事をしないといけなくなる。アルバイトでも増えています。そういう責任を負わされないように「この時間とこの時間は仕事ができない。ゼミ、授業、試験とか差し障りがある時間には勤めることはできません」ときちんと明確にしておくこと。ずるずると食い込ませないことが重要だと思います。
仕事内容トラブル~研修体制が不十分である
研修が不十分という事案もあります。最近のアルバイトは調理とかのマニュアルができあがっています。見てわかる場合もありますが、見ただけではわからない。それなのにミスをしたら「マニュアルをちゃんと見なかったからだ。つくり方が書いてあるじゃないか」と。大学の勉強のように部厚いマニュアルを見ている暇はない。賠償責任とかいわれても、きちんと抵抗すること。研修時間をちゃんと確保してもらう。研修も仕事時間です。研修は自分で勝手にやるものではない。やってもいいが、労働時間に入る。アルバイト先でも「ちゃんと研修をやってください」ということが重要です。
いじめ・嫌がらせトラブル~パワハラされる
パワハラ、パワーハラスメント。仕事の上下関係に基づいて嫌がらせをされる。上司から仕事にかこつけて圧力をかけられる。言葉の暴力を浴びせられる。こういう場合、耐える、がまんすれば何とかなるのではないかという対応が結構、目につきます。上司はまた次の人に同じようなことをします。職場の中がどんどん居づらくなっていきます。居心地が悪い職場になります。自分がやられた時、勇気をもって明らかにすることが職場の環境をよくすることになります。そのことを意識してください。同じ目にあっている人がいる。仲間で情報交換してへんな上司がいればみんなできちんと対応していく。パワハラ、セクハラに対抗することが重要です。大学もセクハラ、パワハラが多いところです。私も京都の大学のほとんどでかかわっています。幸い花園大学はありませんが。職場環境をよくしていくためにも、一人ひとりが被害を受けた場合、表に出していくことが重要だと意識してください。
労災トラブル~仕事中のケガを労災と認めてくれない
仕事中に怪我をする、病気になる。仕事が原因で怪我をしたり、病気になった場合、保障されることを覚えておいてください。運転のアルバイトをしていました。交通事故にあいました。仕事中なので怪我をしても労災で保障が出ます。休業することになってもその間の給与保障が出ます。あまりにも長時間の仕事のため、上司からいじめられてストレスが溜まってウツになってしまった場合も仕事によってそういう状態に追い詰められたということで仕事が原因の病気だとなります。治療費や休業保障も確保されます。場合によっては企業に対して損害賠償もできます。仕事が原因で怪我や病気になった場合、保障されるということです。
辞職トラブル~辞めさせてもらえない
最近、増えているトラブルは辞めさせてもらえないこと。「契約したんだからずっと勤める契約で途中で辞める場合、相手がOKしてくれない限り、ちゃんとした理由がない限り勝手に辞められないのではないか」と思う。真面目な方は、こんな企業にいられない、もう辞めたい、このままでいたらおかしくなる状態でも「お前まだ、辞めさせないぞ、あと1年だ、5カ月はだめだ」といわれたら必死でがんばって耐える人たちがいます。使用者と契約したから辞めることはできないのではないかと。労働法は辞めることについては労働者の自由を保障しています。使用者と労働者は対等ではない。働く時、実際には使用者が圧倒的に力をもっている。労働者は契約で「ここで働くこと」を選ぶが、辞めたい時は自由に辞めていい。他のところにいきたいなら、ここは自由に辞めることができると保証されている。何日前に伝えないといけないという制限はありますが、基本的には辞めるのは自由です。退職の自由が保障されている。ブラックバイトでずっと勤め続ける必要は全くない。時々、「今、辞めたら1000万円の損害賠償」とか、とんでもないことを使用者がいうとか、「裁判で賠償責任を追及するぞ」と脅しでいってくる人たちがいます。実際に裁判を出してくる人もいます。裁判所はそれについては使用者からの損害賠償を認める事例は殆どありません。逆にそんな脅しをしたということで労働者が賠償請求して慰謝料をもらう事案もあります。いやなところはいつでも辞めていいと、しっかりと頭に刻んでおくことが重要です。
困ったときの相談窓口
今まで説明してきたように、みなさんが間違って「ブラックバイト」に採用されてしまった場合、「こんなところは許せない」「残業代をちゃんともらいたい」「権利を主張したい」そういう時はどうするか。学内に相談に乗ってくれる機関があります。ここの人権教育研究センターもそうです。気軽に相談にいってください。公的機関では労働局、労働基準監督署がありますが、敷居が高いですね。何となく役所は学生からすると相談しづらいこともあると思うので「いった方がいい」と先生からアドバイスを受けたらいったらいい。まずは学内で相談にいってください。弁護士会や区役所に無料相談所があります。ぜひそういうところも利用してください。また労働組合があります。日本の労働組合はどんどん小さくなっていて、働いている人の中で労働組合に入っている人は17%です。みなさんが就職した先に労働組合が存在していれば、労働組合は労働者の立場に立って職場を改善するところですから、そういうところに相談することも大事です。
10年くらい前、大学生にアンケートをとった調査がありました。「労働事件で悩んだ時、誰に相談しますか?」。あまり親には相談しないんですね。友だちはあっても。相談機関の中でトップが警察でした。でも警察にいっても労働事件はアドバイスしてくれません。2番目が消費者センター。当時、消費者問題が話題になったこともあって学生が相談にいくこともあった。分野が違うということもあり、あまり役に立たない。労働関係は労働関係のところがある。ネットを引けば、いろんな労働相談があります。中には危ないところもあるので気をつけた方がいいと思いますが、おかしい時はきちんと手を上げる。黙っていたらみなさん自身が救済されないと同時に同じ思いをしている職場のみなさん、アルバイトのみなさんの権利も救済されない。誰かが手を上げること、声を出すことで変わってきます。今、必要なことは、みんながおかしいと思う事、法律に反していることを、みんなで直していくことです。ブラック企業を社会からなくして、みんなが働きやすい仕事をつくっていく、そういう環境に変えていくためにも一人ひとりが声を上げていくことが重要になってきていると思います。
昔に比べて若い人たちの働き方が大変劣悪なものになっています。今、大学を卒業した人の6割くらいが残念ながら正社員として働き続けられる働き口を見つけることができなくなっています。有期、パート、不安定な形で働かざるをえない環境の中で、多くの若者のみなさんが社会に出ざるをえない。これを変えていくためにも自分たちの問題をみんなでいっしょになって、若い人たちが社会に訴えて変えていくことが重要だと思っています。日本の法律、労働法はそれほど捨てたものではない。法律通りに権利を主張していけば、きちんと保障される、法律と実際の使用者のみなさんが行っている現状は大分食い違っています。みなさんがアルバイトをする時、4年後に就職する時、労働法の中で、こんなことが保障されているということを意識して声を上げていっていただくことをお願いしたいと思います。これで私の講演を終わらせていただきます。ありがとうございました。