人権教育研究センター

附属機関 人権教育研究センター

入学式・人権講演

4年後晴れやかに卒業するために

高嶺 三重子(学生支援室)

はじめに
 こんにちは。学生支援室の高嶺といいます。よろしくおねがいします。
 先ほど、 学生支援室は障害のある学生の支援をする部署だという説明があったと思いますが、学生支援室には、障害がある方だけでなく、一般の学生さんもたくさん相談にこられます。大学生活を送る上で困ったことがあった時、悩みがある時、どうしようもなくなった時にこられる方が、たくさんいます。その中で いろんな悩みを乗り越えて、どんどん強くなって卒業していかれる方もいますが、乗り越えられなくて大学をやめてしまう人も何人かいます。退学ですね。大学をやめる人の中には新しい目標を決めて前向きに明るく「別の道にいきます」という人も、もちろんいますが、それはとっても少ない。「ちゃんと卒業したかったのだけれど、何故だかわからないけど、何もかもうまくいかなくなってしまった」といってやめてしまう人もいます。
 今日は、支援室に寄せられた相談の例をいくつかお話して、「大学でつまずく時ってどんな時か」と心構えをしていただきたいと思います。そして、もしつまずいても、それを乗り越えてさらに強くなっていってほしいという願いをこめて、「これだけは覚えておいて」ということをお話したいと思います。希望に満ちて入学したのに「つまずく」話というのもどうなのかなと思うかもしれませんが、リスク回避としてちゃんと心に止めておいていただきたいと思いますので、がんばって聴いてください。

大学生活でつまずく原因 
 
大学に入ってつまずく人、戸惑う人、うまくいかなくなる人の大きな原因の一つに「何でも自分でやらなきゃいけない」ということがあると考えられます。入学式の挨拶でもあったと思いますが、高校生と違って大学生は何でも自分でやらないといけない。
 たとえ話で説明してみましょう。この中で泳げる人、手を上げてみてください。おや、意外と少ないですね。じゃあ、スイミングスクールに行ったことがある人は?
 スイミングスクールの初級講座で一生懸命泳いでいた人が、突然、海に放り込こまれたと想像してみてください。これが大学1回生の状況だと思ってみてください。スイミングスクールではコースがちゃんと決まっていて、平泳ぎ、バタ足とちょっとずつ習って「ハイ、スタート」、「そこまで」、「休憩」と全部コーチが教えてくれます。スピードも、どんな泳ぎ方をするかも、一つひとつ教えてくれます。手取り足取り。そのうちだんだん泳げるようになってくる。
 ところが海に放り込まれたら、「あの島にいけばいいんだな」という目標はきまっていますが、泳ぎ方も、コースも、スピードも、全部自分で決める。クロールでガンガンいく人がいてもいいし、「私は平泳ぎでゆっくり」とか、「途中のブイにつかまって休み休み行く」という人がいてもいい。そんな感じやと思ってください。大学生活では、「自分でどう泳ぎ抜くかを考える」ことをしなくちゃいけない。それでちょっと困る人が出てくるんですね。

カリキュラムを組む
 
たとえば勉強の話をします。今日、時間割について学務課から説明がありましたね。履修登録、つまり自分で時間割を決めないといけないのです。高校までは時間割が決まっています。友だちもいっしょに教室の移動をする。けれども、大学では、それぞれ自分で決めた時間割なので「次は俺、あっちの教室やし。バイバイ」となります。自分で組み合わせて時間割を決めます。それが結構ややこしいんです。単位登録ガイドブックの分厚いのを全部読んだら間違わないんですけれど、とっても面倒くさい。明日、ちゃんと説明されますからよく聴いてください。
 花園大学には留年制度はありません。この単位をとれなかったから、もう一回、1回生をするというのはないです。ただ卒業までに124単位、単位というのは授業ごとに2単位とか1単位とかで計算するのですが、124単位とれば卒業できます。1回生でとっておかないといけないものとかも決まっているし、学科によって「これは必修」とか「これは選択」とかあります。先生になるとか、社会福祉士とか、学芸員とか、図書館司書の資格をとるとか目標があると思います。それをとろうと思ったらプラス別の講義をとらなければいけません。卒業までに124単位とれなかったらどうなるか。ただ卒業できない、それだけです。もう一度、授業料を払って残りの単位をとることになる人もいます。間違えるとちょっと怖いですね。明日の説明をよく聴いて4月10日の締め切りまでにちゃんと時間割をつくってください。不安だったら何度でも教えてくれるので、学務課にいってください。そうやって自分の行動計画を自分で立てて、勉強がはじまるわけです。

テストの勉強のしかた、レポートの書き方
 
勉強のことで相談が多いのがテストの勉強についてです。どんな勉強をしたらいいかわからない、という相談です。高校では、小テストで確認してくれたり、宿題を出してくれる。「宿題やっておけよ、ここをちゃんとやったらテストができるよ」と計画も先生が立ててくれる。授業中、寝ていたら「こらこら、聴いておかんとアカンぞ、ここは」と、注意してくれます。大学ではそういうことはほとんどない。寝ていても迷惑にならなければほうっておかれます。90分授業が15回あって、7月になるとダダダッとテストの課題が出ます。それも「ここを覚えればいい」というものだけではない、「このテキストについてまとめよ」というのもあります。「自分の意見を述べよ」というのもあります。自分でちゃんと考えておいてテストの時に書くこともあります。そして、テストの点が悪かったとします。「赤点だったからもう一回追試」というのは高校までの話。大学ではその1回のテストで単位は落とされます。評価はABCDKとあってSはスペシャルで特別いい点。Aは「よくできています」。Bは「まあまあです」。Cは「ギリギリやけど、通してあげます」。Dは「残念」。授業に出ていなかったり、テストを受けなかった人はK。全部、学期末に成績がついたものが送られてきます。テストの点が悪かったらDがつきます。再テストはありません。「もう一回、この単位を登録せなあかん」ということになります。そういうことに慣れてないと試験の期間になって急に課題がいっぱい出てきて「どうしよう」と思うわけです。
 テストと同じようによく相談のあるのがレポートです。どう書いていいかわからない。レポートの書き方は授業で習うんですけど、2000文字とかだったらA4でびっしり1枚半くらい書かないといけません。それも感想をだらだらと書くのではなく、もとの文章を要約して、自分の意見を述べて、なぜそう考えたのか、根拠となる資料を示すというように書いていきます。まず長い文章をきちんとまとめないといけない。今までそんなにたくさんレポートを書いたことはないと思います。だから最初、すごく大変です。
 レポートというのは○か×か、答えが一つに決まっていません。どこまで書いたら○というわけではありません。書いている途中でも、「これでいいんかな。もうちょっと書いた方がいいんかな。もうやめようかな」「あ、しまった、あれを書けばよかった」と思う。どこかで自分で決めないといけない。そして「よし、これでいい」と提出する。その提出も「これこれの科目のレポートはこういうタイトルで何月何日何時、どこどこのメールボックスに入れてください。締め切りはいつです」と書いてあったらその時刻までに出さなければいけません。10分遅れたらもう受け付けてもらえません。評価はKになります。高校だったら遅れても、「2、3日待ってあげるからがんばって早く書けよ」と言ってくれる時もあるでしょう。そういうのはない。そこは厳密です。結構大変です。それで相談にくる人も多いです。

講義が難しい
 
他には、先生の授業がわからないという人もいます。わからないから、しんどい。「なんか、出たくないな」。ちょっと休む、次も休む。次は行こうと思っても、休んでいたからますます授業がよくわからないし「今さら行けるかな」と、ちょっと入りにくい。ずるずると休む。結果、「ああ、落としちゃった」みたいな人もいます。
 花園大学は入学するのはわりあい簡単ですね、入学試験は。でも授業の中身は簡単じゃないです。それが面白いところですけどね。楽しいところです。先生の講義が難しいといったって、それはあたりまえです。初めて海に飛び込んだ小魚が、何十年も外海を泳ぎ回ってきた鯨についていけるはずがない。だけど難しい話でも聴いていると「あ、この先生、何いっているかわからんけど、自分に大事なことをいっているのではないかな」という直感みたいなものを感じる時が必ずあると思うんです。みんなの本能としてあると思います。知的好奇心、成長への向上心みたいなものが、フツフツとあるから「この話をわかりたいぞ、何いっているか、ちょっとマスターしたい」と思う。ただの知識ではない、ちょっと高いところを目指している時、そういうことを思いますよね。そういう経験があると思います。難しくても一生懸命がんばる。そうしたらわかるようになる。ですからそこで心が折れないでほしい、がんばってほしいと思います。

生活のリズム
 勉強の話をしました。あとね、生活リズム、これが大学に入ってガタッと崩れる人がいます。高校の時も乱れかけていた人もいると思うけど、みんな同じ時間に友だちと学校にいっていると何とか続きやすいのですが、大学に入るとそうもいかなくなる。共稼ぎで、お父さんもお母さんも、仕事にいっている。「大学行きや」といわれて「2限からや」。ほんとは1限からかもしれへんけど、「ああ、そうなん」といって出かけてしまう。「行かないといかんな」と思っても一人だと二度寝という人もいます。ずるずると遅れてしまう。夜はゲームしていると2時、3時になって朝起きられないという人もいます。そんなこんなで2、3回休むとなかなか次にいけない。途中で立ち直ればいいんだけど、そのままずるずるっというのが一番怖い。
 それからね、生活の話でいくと一人暮らしの人がいます。大学生になって一人暮らしの人、手を上げてください。うーん、何人かいますね。これがまた大変です。一人暮らしはワクワクして楽しいことですが、今まで全部、ご飯をつくってもらって食べていたのが自分で何とかしないといけない。朝も自分で起きないといけない。掃除もしなくちゃいけない。洗濯もしなくちゃいけない。うっかりすると服がどんどん臭くなって洗濯物が溜まる。お金の使い方についても、大学で友だちと学食で食べたり、コンビニで食べ物を買ったりしているうちに「エッ、小遣い、もうないやん」となります。生活していくっていうのは、高校の時はできそうに思っても、初めて一人暮らしをすると結構大変です。ある女の子なんて「アパートで朝起きたらゴキブリがいた」と泣きながらきた人もいました。ゴキブリくらいでそんなになる人は少ないと思いますが、いろんなことでトラブルがいっぱいあります。それも疲れます。その上、一人暮らしはお金がいる。学費は親が出してくれるけど、アルバイトをする人も多いです。履修登録の時、「私は教員になりたい」と、びっしり授業を詰め込んで、資格用の授業もとって、夜はバイトを入れて、という人がいます。「無理じゃないかな?初めて一人暮らしをしてこんなことできるかな?」。案の定、ポキッと折れてしまう人がいます。もう詰め込みすぎなんです。
 そういう時、さっきの海の話で例えると、無茶苦茶な泳ぎ方をしていて「あ、これはしんどい、無理やな」と自分で気づいて修正できる人、これは大丈夫です。いっぱい単位登録したけど、「これとこれは来年に回そう。これだけはとっておこう」「バイトをちょっと減らそう」「申し訳ないけど、家に電話してお金送ってもらおう」というようなことを早め、早めに修正できる人は自己コーディネート能力が高い。何もかもできると思って、ガーっと泳いで、突然ブクブクっと沈んでいく人は気の毒です。そうなってほしくないなと思います。

人との関わり
 
勉強の話、生活の話をしました。あともう一つ多いのが人間関係の悩みです。「大学で友だちができるかな」とワクワクして入学します。4月、いっぱい友だちができます。もうキャッキャッ笑って「楽しいな」といっているんやけど、実は、話をあわせるのにものすごく疲れてしまう人がいます。ゴールデンウィークが終わっても、「もう行きたくない」となる人、割合います。「新しい友だち関係を大事にしなきゃ」と思って話をあわせて一生懸命付き合う。結構無理してるから心も身体もしんどくなるんですね。
 それから、すごく仲良くなっていたと思っていたのに気がついたら「エッ、一人ぼっちや」という人もいます。こんなのはね、ちょっと我慢すればいつか何とかなる話なんやけど、それですごく落ち込んでしまう人もいます。人間関係が一番落ち込みが激しいと思います。気がついたら大学にいくのが嫌になって「こんなことではいけない」と行こうと思うと手足が震えてくる。汗がダーッと出てくる。こうなるとうつ病になりかけているかもしれない。早めに病院にいってちゃんと相談するといいのに「自分はなんて弱い人間なんだ」と自分の心に鞭打つ。ますますしんどくなります。悪循環です。そうなったら早く相談にきてください。我慢せずに、相談しやすい人にとにかく相談しましょう。
 家の人に言えなくて、「いってきます」と京都駅まで来たものの、そこから前に進まず、大学にいけなくて一日ぐるぐる回って、夕方頃家に帰るというのを続けて、ものすごくしんどくなった人もいます。
 また、部活やサークルでうまくいかなくなる人もいます。「部活でがんばろう」と思って入ったら、とても厳しかった。全国大会にいくような部活で、練習が大変だった。ついていけない。「これはあかんな」と思ってやめた。やめたのはいいんです。部活ばっかりやって勉強できなかったら本末転倒なので。ところが、やめたら「どう思われてるんだろう?」と気になる。大学にきたらその部の人と顔をあわせられない。相手の人はみんな、何も思っていないんですが、本人はとても気になる。その人と目をあわせられない。「”あいつやめよったな”といわれへんかな」と思うと、すごく来づらい。それでしんどくなる。これも人間関係の悩みですね。そういう人もいます。

大学生活の目標は
 なんだかしんどい人の話をいっぱいしました。これは一部の人ですけどね。でもみなさんもそうなる可能性はあると思います。誰でもあります。絶対大丈夫ということはないと思います。
 勉強についても、「何万字分の卒業論文なんて書けるのかな」と思う人もいるでしょう。でもみんな書けます。ちょっと考えてみたらね、勉強の本当の面白さって、そういうことですよね。「これとこれを覚えたらOKです」といわれたら、それだけ覚えるような機械みたいな覚え方ではなく、自分で考えて「これでいいのかな、これでいいのかな、じゃ、これを調べようかな」と思って調べていく面白さ。わからない話をしている先生の話を一生懸命聴いて「あ、わかった」と思う時の感動。小学校に入って初めて勉強習った時って、すごく楽しいですよね。「あ」というひらがなってこんなふうに書くんや。書けたらワクワクするじゃないですか。その時は勉強の面白さを楽しんでいるんだと思います。中高と勉強してきて、ちょっと疲れている人は勉強の面白さをちょっと忘れているかもしれない。花園大学に入ってもう一度、「自分で考えて、自分で調べる勉強の楽しさ」を、また見つけていってほしいなと思います。それを乗り越えて自分のものにした時、世界は広がると思います。自分が「苦手だ」と思っていたことができるようになった時、「怖い」と思っていたことが怖くなくなった時、新しい世界が見えます。それがみなさんの目標ではないかなと私は思います。

つまずきを乗り越える
 
つまずきやすい話をいくつかしました。今度は支援室にこられていた方で、それを乗り越えてきた方のエピソードを3つほどお話したいと思います。
 もう卒業した人ですけどね。A君、この人は歴史が好きな人で日本史学科にいました。そんなに勉強は好きではなかった。二回生で、論文を書くための練習をする勉強があります。テキストの中に出てくる論文を調べ、その文章を訳す。昔の文章は漢文ですし、漢字も普通使っている漢字ではないのもありますし、調べても出てこないのもあります。返り点とか何もついていない。でも何が書いてあるか、丁寧に細かく読んで現代文に訳していきます。そのテキストに出てくる史料が花園大学の図書館になかったら「どこに行けばあるのか」調べてそこに借りにいきます。手間と根気のいる勉強です。A君はわりと短気な人でした。気が短い。コツコツ勉強するのはすごく大変で「もう大学やめる!」と、しんどくなって支援室に相談にこられました。支援室では、その人の代わりに何かやってあげたわけではありませんが、少しずつアドバイスしました。支援室にきて「なんやこれ、わからん、なんじゃこれ」とブツブツいいながら、勉強をしていることが多かったです。一生懸命やって提出したら先生が結構厳しくて「これ、やり直しね」といわれて「もうやってられんわ」と帰ってくる時もありました。「何でやり直しやねん?!」と怒りながらきました。でもしばらくしたら、「これやな、問題は」といいながらつくりなおしていました。その人が偉かったのは1回も休まなかったことだと思います。怒りながらも休まなかった。ずっときました。3回生の終わり頃になって、支援室で勉強しているのをみると、漢文とか古い文章を結構上手に読んで、サッサッサッと調べて書いている。「あ、こんなにできるようになるんやな」と感心しました。そして自分で卒論のテーマを決めて、太平洋戦争の沖縄戦がテーマでしたけれど、それを選んで自分で戦跡に旅行にいって調べたり、ゼミの先生に相談してアドバイスしてもらって論文を書いていました。一般の人は見たこともないような資料、米軍の資料などをたくさん調べて「ここに書いてある」と必要な部分を探し出して、書き上げました。
 卒業する時、すごく自信に満ちた顔をして「すごく変わったな」と思いました。ものすごく苦労しながら、休まずに、ブーブーいいながら「やめたるわ、わけわからへんわ」といいながら、でも、ちゃんとできた。その人は卒業する頃には、1回生の時、全然、読めなかった漢文が「あれ、意味わかるやん」となっていたと思います。それまで聴けなかった先生の話も「うんうん」と聴けるようになったと思います。ステージが上がったと思います。途中でめげたらだめやと思う。そうやってがんばって、がんばってやっていたらできるということですね。
 別の人の話しをします。Bさんは、真面目な人で何でも積極的にやろうという人でした。授業中「グループでリーダーになってくれる人いませんか?」と聞かれて誰もモジモジして手を上げなかった。その人は「誰もやらないんだったら私、やります」と立候補しました。そこから何かギクシャクしはじめて「なんか、偉そうに」といわれたりするようになりました。全然、悪気はなかったんですが、友だちから浮いてしまいました。すごく悲しくて、ちょっと学校にこられない時もありました。支援室で話を聴いてもらったりしながら、でもその人はコツコツと「いい、じゃあ、一人でがんばる」とがんばっていた。そして、その人も、3、4回生の時には名実ともにリーダーになって、ちゃんとみんなをまとめて、みんなと仲良くしながらやれるようになりました。就活の時、「このアルバイトで判定されて内定がきまるかも」という福祉のバイトをしていた彼女に、「あなた、優しいから大丈夫やね」といったらニコッとして「いやいや、結構、腹の中は黒いんですよ」と笑ったんです。その言い方がね、「あ、この人、一皮むけたな。大人になったんやな」という感じがね、フッとしました。ピリピリ、オロオロしながら一生懸命やってるのに、「とうしてうまくいかないんだろう」みたいな弱い感じの、かわいい感じの女の子だったのに、なんか、ちょっと堂々として「ちょっとやそっとでは私はめげない」という強さを感じました。その人は自分で一生懸命乗り越えようとしはったんやと思います。
 最後の人はね、これも人間関係ですね。勉強のよくできる真面目な人でしたが、授業の中で、もう一人の人とペアを組んで何かの課題をつくりあげて最後に発表してくださいという授業がありました。その女の子は関西の人じゃなかったんですが、ペアになった女の子はすごい関西弁で、多分、友だちもいてワーッとしゃべっていた。関西弁の女の子が早口でしゃべると関西でない人はちょっと怖いと思うらしいですね。この感じ、わかります? 「はあ? 何いうてるの」みたいな。その女の子は「怖いな」と思った。ましてその人は、ピアスをして金髪やったかな。「あの人とペアになって話をするの、どうしよう。たまに休まはるし、わあ、無理やわ」と思ってドキドキしているうちに、なんか「学校に行こう」と思うと涙が出てきて行けなくなる。「どうしよう」と支援室にメールをくれました。「とりあえずおいで」といってお話を聴いて「無理やったら、この授業、今年は飛ばして、がんばって来年やれば何とかなるやん」という話をしていたんですけど、その子は「こんな自分が情けない」と泣いていました。2、3回、話をして「でもちょっとがんばってみる」ということでした。しばらく支援室にこなくて、後に会ったら、すごく元気そうになっていて「その子に自分からちゃんと相談しようと話をしたら、めっちゃ、いい子で話もちゃんとできて仲良くなりました。もう大丈夫です。単位ももらいます」といってすごくうれしそうにしていた。パッと見て「怖い!」と思って「もうだめや」と思ったけど、その子はそれを何とか乗り越えたいと思って乗り越えた。今のエピソードは自分の苦手なことに、チャレンジしてみないうちから「怖いな」と逃げかけたのですが、逃げないで自分の力で乗り越えていった人の話です。乗り越えていくと成長します。世界が広がります。それが「成熟」ということなのかなと思います。

手を伸ばせばつかまる所はたくさんある
 ここでみなさんに覚えておいてほしい事をいいます。さっきの海のたとえ話で、「大海原に一人で放り込まれたみたいなもんだよ」といいましたけど、実は周りを見渡せばいっぱいつかまるところはあります。ボートもある、浮輪もある、溺れそうになっても、助けはたくさんあります。
 たとえばね、勉強のことでわからない時、「この勉強、わからへん、先生に聞きたいわ」と思う。職員室がないし、誰々先生研究室と書いてあっても中は見えないし、重いドアがついている。ノックできませんよね。でも気にしないでください。コンコンとノックして「先生、ちょっといいですか?」といったら先生はちゃんと話を聴いてくれます。不在の時もあると思いますが、先生方はメールアドレスを全部、学生に公開しています。どこかに張り出されると思いますけど。メールで「何々の授業のことで先生にちょっと相談したいんですけど、何時にいったらいいですか?」と聞いたら、絶対返事がきます。そこはね、「そんなこと、わざわざせんでも」と思わず、どんどん聞いてください。手を伸ばせば、いくらでも答えます。大学が高校までと違うのは、手を伸ばさない人には大人から声をかけることはあまりしない、ということです。自分で手を伸ばした人は絶対、助けてくれます。単位登録のことやら資格のことでわけがわからなくなったら何度でも学務課にいって聞いてください。学務課の人は「これとこれを君、とっているから今度これをとらないといけない」とかちゃんと教えてくれます。一人で「何とかしよう」と思って後で失敗するよりは、その前に聞いてください。学生相談室でカウンセリングもしてくれます。浮輪の中には友だちもいるかもしれない。友だちに相談したらいっしょに何とかがんばれるかもしれない。だからね、思うほど大海原に放り込まれているわけじゃないんです。助けはいっぱい周りにあります。それに手を伸ばして一生懸命つかまってどんどん乗り越えていってほしい、泳ぎ抜いてほしいと思います。浮輪の中には支援室もあります。どこに聴いていいかわからない時には学生支援室にきてください。自適館、コンビニがあるところ、丸いテーブルが並んでいる時計台のある建物の2階の隅っこに学生支援相談室があります。ノックして気にせず入ってきてください。どこまでお役に立てるかわからないけど、一人で悩んでいるよりはとりあえず、話して「これ、どうしたらいいやろ」といってください。そうしたらいっしょに考えます、できる限りのお手伝いをします。

おわりに
 これからの4年間、みなさんが海を泳ぎ抜くにあたって、流されてもいいです、溺れかけてもいいです、でも沈まないでください。そうして自分なりの泳ぎ方を覚えてたどりつけた人は、大きく成長していると思います。4年後の3月、自分の世界を大きく広げて晴れやかな顔で卒業式を迎えている皆さんの顔を思い浮かべて、今日の話を終わります。ご静聴ありがとうございました。