周藤由美子(ウィメンズカウンセリング京都・フェミニストカウンセラー
京都性暴力被害者ワンストップ相談支援センター京都SARAスーパーバイザー)
ご入学おめでとうございます。「入学早々、DV、性暴力って、そんなしんどい話、あまり聞きたくないな」と思われるかもしれないですが、京都SARAで性暴力被害にあった方の相談を受ける中で大学生から相談を受けることも多いです。大学をもうすぐ卒業という時に相談にこられて、入学したばかりの時にデートレイプの被害にあい、その後、サークルの中でも被害にあったということで、男の子とつきあうことや、自分自身に対しても自信がもてないということで、ずっと大学生活がしんどかったという話をしておられました。「最初に被害にあった時に『こういうことって性暴力なんだ。相談してもいいんだ』と教えてもらっていたら、こんなふうにならなかったかもしれない。大学生たちに自分自身のことも伝えてほしい」と言ってくれたんですね。早いうちにDVや性暴力があるということ、自分自身を守ること、加害者にならないことを考えていただきたいと思って今日はお話する時間を与えてもらって、ありがたいなと思っています。
A子さんのケース ~デートDV
「デートDV」の話からしようと思います。デートDVについて高校までに授業で聞いたことがあるという方、あまりいないですか? DVというのは、結婚しているとか、一緒に住んでいる人同士の間で起こる暴力をいいますが、つきあっている同士の場合は「デートDV」といいます。ボコボコに殴るという身体的暴力以外にも「バカ、死んでしまえ」とか言葉による暴力もあります。イヤなのに無理にセックスをするとか、避妊に協力しないなどは性的暴力ですし、お金を払わないなど経済的な暴力も含めてDVは様々な種類があります。
たとえばA子さんのケース。A子さんはB君に積極的にアプローチされて交際するようになった途端、B君はA子さんに「常に自分と行動するように」と要求してきました。A子さんがアルバイトや授業があるのにB君の都合であわせられたりもしました。B君は、A子さんが自分の行動を優先しようとすると「こんなに真剣にA子さんのために考えているのに勝手な行動をとるのか」といいます。苦しくなったA子さんが「別れたい」と切り出すと「別れない」とA子さんが言うまで一晩中寝かせてもらえず、結局、諦めて「付き合うしかない」と思ってきました。A子さんは「別れてくれない」という状況に苦しくなって、だんだん体調が悪くなってきました。これって「B君はA子さんのことを、そんなに好きなんだね、つきあっているって、こういうこともあるんじゃないの」と思われるでしょうか。
内閣府が3年に一回、「男女間の暴力に関する調査」を行なっていますが、その中の「交際相手からの被害」の項目では、身体に対する暴行、心理的攻撃、経済的圧迫、性的暴力、このいずれかについて「被害を受けたことがある」と答えた人たちは、交際相手がいる女性の19.1%、交際相手がいる男性の10.6%がいました。これは2015年の調査の数字ですが、2018年の調査でも大体、同様の数値が出ています。暴力や支配を受けて「それだったら別れたらいいんじゃないの?」と思われるかもしれないですが、被害にあった女性の28.9%、男性の21%は「別れたいと思ったけれども、別れられなかった」と回答しています。暴力をふるわれても、なかなか別れられないというのが現実なんですね。
それでは被害者はどんなふうに思っているのでしょうか。「実は自分が悪かったんじゃないか、自分にも責任がある」と思うことが多いんですね。暴力をふるう側が「お前がいうことを聞かないからだ」とか「お前がこういうことをしてくれないから」と言っているからというのもあります。パターンとしてよくあるのは、彼女がちょっと浮気というか他の男の子とつきあったりしたら、そこからパッと態度が変わり、ずっとそのことを責め続ける。彼女は「自分が浮気をしなかったら、こんなことにならなかったのに」と思ったりする。「暴力さえふるわなかったら彼にもよいところもあるし、好きでつきあい始めたんだから彼が変わってくれるようにもっと自分ががんばったらいい」とか「別れたい」と思っても聞いてくれない、何をされるかわからない、などと自分の中で抱え込んでしまうのですね。一人でグルグルと考えている状態の中で誰かに相談できたらいいんですけど、「つきあっている彼から暴力をふるわれている」と話すのは「ちょっと恥ずかしいな」と思ったりして、「誰にも相談できない、どうしていいかわからない」という中で別れられなくなっていることが結構あります。
こういう状況がずっと続いていくと被害の心身への影響は深刻になります。自分がつきあって、自分が大好きだった相手、その人から日常的に「お前はだめだ」とか暴力をふるわれると自分に自信がもてなくなってしまう。「だめな人間だ」とか、本当はイヤなのに、つき合わされるとか、言うことを聞いてもらえない中で、自分の気持ちがわからなくなってしまう。「こういうことをしたい」と言っても、言うことを聞いてくれない。しょうがないなあということが続くと最初から諦めてしまう。「ずっと俺と一緒にいろ」「私と一緒にいて」と言われると、他の友だちや家族から切り離されてしまって相談もできない。孤立してしまう。身体に症状が出ることもよくあります。憂鬱になって眠れないとか食べられないとか、過食してすべて忘れようとするとか、頭痛、吐き気など身体の症状が出てくる。女性が被害者の場合、LGBTの方もいるかと思いますけれども、そういうことも含めて人が怖くなってしまう。影響は深刻ですね。
早く相談してほしいと思うのですけれども、内閣府の調査でも「どこにも、誰にも相談しなかった」のが女性で39.3%、男性で55%です。男性の方がなかなか相談しにくいこともあるんですね。女性で「友人、知人に相談した」のが53.8%、男性で38%いるということで、みなさんの身近な友人が相談してくるかもしれない。
それで、周りの人も、その被害にあった人、加害者になってしまう人も、DVについてちゃんと理解してほしいことがあります。ちょっと仲がよすぎて「好き過ぎただけなんじゃないの?」とか「DVと単なる喧嘩とどう違うのか」、わかりにくいところがあるかもしれません。DVの場合、暴力をふるう側が暴力をふるう相手を支配して自分の思い通りにコントロールしてしまいます。喧嘩の場合は別に相手が、どっちが上とか下ということではなく、対等な関係で言い合う。そこが全然違うわけです。暴力をふるわれた被害者は加害者のことが怖くなってしまう。「こんなことを言ったら怒らせるかな」と顔色を伺う関係になってしまいます。そうではない関係だったら、相手が少々機嫌が悪くても「怒っちゃうんじゃないかな」と思って言いたいことも言えないことはなくて、遠慮せずに自分でしたいことをしようとか自分で判断ができる。そこが違うわけですね。暴力をふるわれて、そういう状況にある被害者は「自分が悪い」と思ってしまいがちですが、喧嘩の場合は、「お互いの考えが違うだけだよね。違う人間だからあたりまえだよね」と話し合ってお互いに歩み寄るとか、折り合っていくことができるわけです。そこがDVと喧嘩の違いです。これからつきあい始める相手が暴力をふるう加害者かどうか、外見とかではわからないんですね。もしつきあい始めて「あ、これはおかしいな」と思ったらすぐに相談するのがポイントだと思います。
暴力をふるう人ってどんな人か。「俺さま」で常に暴力を振るい続けている人なのかというと必ずしもそうではない。後で「あの人、実は暴力を振るっていたんだよ、DVの加害者なんだよ」と言うと「あんないい人が、まさか」といわれるように、人あたりがよかったり、リーダーシップをとったり、外面がいいタイプの人がいます。暴力をふるうということで「自分に自信があるのかな」と被害者も思ったりするんですが、実はそうではない。浮気が原因で、それをずっと言い続ける、結婚している場合、結婚前の交際でもしつこく「お前は浮気をしていただろう、別の男の子を妊娠しただろう」と何年も何十年も言うことがあります。それって本当は自分に自信がないのかなと思うんですね。自分に自信がある人は、交際相手の彼女、彼氏が他の誰かと仲良くしていたとしても、「他の人と仲良くしていても自分のことも大事にしてくれる」と思っているので大丈夫なわけですね。他の誰かと仲良くなったら自分が嫌われてしまうのじゃないかという不安、自信がないので「もう彼とはつきあうな、自分のことだけ見ていろ」となる。実は不安を抱えている人なんですね。男性の加害者の場合、「男は女より偉い、女は男に尽くすものだ」という考えをもっていて「なんで男を立てるべきなのに言うことを聞かないんだ」と暴力をふるう、そういうことも共通してあります。
DVの加害者は何かイライラしたとか暴力をふるう原因があるとか、育った環境の影響などで仕方なく、そういうことをしたのかと思われたりすることもあるのですが、どこでも誰に対してもするわけではなく、「こいつだったらしても大丈夫だろう、この人だったら自分の思い通りにできるだろう」と思う相手を選んでいる。先ほど説明したように「自分が捨てられるのではないか」という不安が消えないので暴力が繰り返されてしまう。暴力をふるう、相手をコントロールすることで「自分の思い通りにできる、自分の方が偉いんだ」と思うことで、暴力をふるう加害者って、暴力を手放すメリットがない。暴力を振るう加害者は被害者を必要としているのでなかなか別れてくれないところがありますね。
暴力をふるって加害者になってしまうのは悲しいし、カッコ悪いですよね。自分の大切な相手を暴力で支配する、コントロールする、ずっと不安を抱えて相手にしがみついちゃう。そういう関係ではなく、ちゃんと相手と向き合い、相手を支配するのではなく、対等な関係で楽しい交際ができるようになるといいなと思います。
「モラルハラスメント」という「人格障害」的な加害者の場合もあります。この場合はすみやかに離れるべきです。
ストーカー被害については、女性の10.5%、男性の4%が被害にあっていると回答しています。被害者の人が、なかなか「イヤ」といえない、断りづらいタイプの方が狙われることも多いですが、それでも一生懸命「イヤ」と言っている。でも、断っても、断っても聞いてくれない。「彼氏がいるから、つきあっている人がいるから」と言っても、「自分とつきあいさえすれば自分の良さがわかってくれるから」と言ってくることもあります。ストーカー事案は、1対1、個人で解決するのは難しいので、専門のところに相談しましょう。京都SARAに相談するのもいいですけど、京都ストーカー相談支援センターという専門の相談窓口があります。「これってストーカーかな?」と思われるようなことも遠慮なく相談したらいいと思います。危険な場合は警察にも相談できます。今は24時間対応になっていると思います。夜中でも電話をしたらいいと思います。
B子さんのケース ~性暴力
次に性暴力についてお話します。B子さんのケース。親元を離れてマンションで一人暮らしをしています。高校時代の同級生のC君が「京都に遊びにくる」といって「ご飯を一緒に食べよう」となりました。高校時代は友だちとして一晩中、カラオケなどで過ごす仲間だったので久しぶりに話ができると楽しみにしていました。食事をしたのは居酒屋さんのようなお店で、C君は当然のようにお酒を頼み、B子さんはつきあいで飲むことになりました。B子さんは少し酔ってしまい、C君が送ってくれたのですが、B子さんの一人暮らしの部屋に強引に入ってきて、結局、無理やりセックスされてしまいました。B子さんは部屋に入れる前も「帰ってほしい」と頼みましたが、帰ってくれなくて部屋の前で言い争いをしているのを近所の人に知られるとか大家さんに知られたら困ると思って結局、入れてしまって被害にあってしまいました。翌日、C君は何事もなかったかのように帰ってしまい、その後、連絡もありません。これってどう思われるでしょうか。「ちょっと一緒にお酒を飲んで一晩、楽しんだんじゃないの?」とか「こういうことってよくあることなんじゃないの?」と思われるでしょうか。性暴力って、もしかしたら聞き慣れない言葉かもしれないですが、お手元に京都性暴力被害者ワンストップ相談支援センター京都SARAのリーフレットを配布していますが、そこに「性暴力」について、こういうふうに説明しています。
「あなたの望まない性的な行為はすべて性暴力です」。先程のB子さん、この時、C君とセックスしたいと思っていたでしょうか。B子さんはC君に「もう帰ってほしい」と言っています。「イヤ」だったわけですよね。でも部屋に入れてしまった。セックスをされてしまったんだけれども、これってB子さんにとって「望まない性的行為」だったわけですね。これはB子さんにとって「性暴力」です。レイプや強制わいせつは警察に被害届を出したら、全部が全部ではないですが、捜査をされて裁判にかけられる。性犯罪も、もちろん性暴力ですが、先程のパートナーとの強制された性的な行為、性的DVも性暴力です。子どもも被害者になる、性的虐待も性暴力です。身体に触られるとかだけでなく、言葉によって自尊感情を傷つけられることも性暴力に含まれます。性暴力はものすごく広い範囲のことで、それを全部、京都SARAは相談として対応しています。京都SARAは京都府のセンターでウィメンズカウンセリング京都が運営しています。電話番号は222-7711。本当は24時間がいいのですが、今は10時~22時まで12時間、毎日365日、対応しています。お正月でも安心して相談してもらったらと思います。
どれだけ相談が入っていると思われますか。2017年度は延べで1555件でした。一人の人が何度もかけてきたものもカウントしていますので、実人数にすると314人の相談が入りました。「こんなに相談があるの?」と思われるかもしれないですね。被害内容は強姦や強制わいせつの相談が多いです。相談者の年代では、親御さんからの相談も含めて10代未満、10代、20代までで相談の半数は若い方からの相談です。性暴力というと全然知らない人に、いきなり押し倒されてとか、連れ込まれてというイメージがあるかもしれませんが、実際、加害者との関係は「知っている人」が75%、ほとんどが知っている人からのものです。京都SARAは10時から22時まで、まず電話をしていただいて、京都府のセンターなので京都府在住、在宅の方に限ってしまいますが、「よかったら来所してください」と言って来ていただきます。京都の大学に在学している方でしたら、他府県で被害にあった場合でも相談していただいて結構です。必要があれば病院や警察に相談し、弁護士会とも連携していますので法律相談の同行支援をしています。病院の医療費は京都府に公費負担してもらい、カウセンリングもウィメンズカウンセリング京都で10回まで無料でカウンセリングを受けていただくことができます。
もしも性暴力の被害にあったら・・・
性暴力の被害には、あわないのが一番ですが、被害にあった直後は何が起こったのかわからないですし、どうしていいかわからないので「そのままなかったことにしたい」とか、しばらくボーッとして記憶にないこともあります。できれば早く相談してほしいです。レイプや強制わいせつなど身体接触があった場合、身体のケアをする必要があります。産婦人科や、男性の場合には泌尿器科など、子どもでは小児科など病院で診察を受けて怪我の治療を受ける。レイプされて、望まない妊娠をしてしまうのは、さらに打撃です。望まない妊娠を防ぐためには72時間、3日以内でしたら緊急避妊薬、モーニングアフターピルがあります。それを飲めば100%ではないですが、望まない妊娠を防ぐことができます。3日以内が望ましいのですが、5日以内、120時間以内ですと効く場合がある。できるだけ早く病院に行ってほしいです。京都SARAに相談してもらったら病院に同行できますので、そのことを頭においていただくといいと思います。性感染症、性病の危険もあります。「性病なんて」と思われるかもしれませんが、HIV、エイズなど命にかかわることもありますし、性感染症で、後で、不妊の原因になったりすることもあります。それを防ぐために性感染症検査を受けていただきたいと思います。性感染症の検査は潜伏期間があり、被害直後にはわからないので1カ月後、3カ月後に受けることもあります。被害にあって時間がたったから病院に行く必要はないということではなく、検査を受けてない場合には後でも京都SARAに相談してもらって病院に一緒に行くこともできます。すぐに警察に被害届を出して警察で捜査すると証拠物の採取もしてもらえますが、警察に行くかどうか迷っている時でも、後になって「犯人を捕まえたい」「許せない」と思った時のために、証拠物を採取して京都SARAで保管することもできます。後になって訴えようと思った時に、証拠があるかないかで大きな違いがあります。証拠採取も早い方がいいので、それも頭においていただくといいと思います。警察にすぐ行けなくても、京都SARAに相談して、とりあえずできることをしておいて、後からどうするかを考える方法もあるということを知ってもらうといいと思います。
レイプドラッグ、デートレイプドラッグともいわれますが、一緒に飲んでいてトイレに行って戻ってきて飲みかけのお酒を飲むと、ものすごく眠くなり、意識がなくなって気がついたらホテルや自分の部屋、相手の部屋にいた。記憶がないけれど、裸だったり身体に何かおかしいなということがあって「レイプされたかもしれない」というのがレイプドラッグです。記憶がなくなって「おかしいな」と思ったらすぐに京都SARAに相談してもらったらいいと思います。「お酒を飲みすぎて泥酔して記憶がないのと同じではないか」と思われるかもしれないんですが、お酒も広い意味で薬物で共通しているんですが、レイプドラッグを使われた場合、「薬剤性の健忘」と言いまして、他の人から見たら、ちゃんと意識があって行動しているように見えることがあります。でもその時の記憶がない。その時の判断力、対応する力が落ちているというものです。警察に届けると防犯カメラでの映像をチェックされて「レイプドラッグで薬を盛られているはずなのに、自分の足で歩いているじゃないか。合意の上でホテルに入っているんでしょう」と言われて警察が被害届を受け取ってくれないことがあるんですが、これが「薬剤性の健忘」なのです。睡眠薬を飲まされて意識がなくなって寝ている時もあるけど、途中で起きて行動して、でも薬物の影響があるという状況があります。「どうもおかしいな」ということがあったら、すぐに血液と尿を採取して薬物の検査をしたらいいと思います。ただこれは警察で検査してもらわないとだめなので警察に相談することになります。最近、そういうことが問題になって内閣府でも薬物やアルコールを使用した性犯罪についてホームページにも記載がありますので見られたらいいのではないかと思います。
京都SARAに相談してもらった場合の対応としては、今、説明したような身体のケアとして病院を紹介したり、同行したり、証拠物の保管もします。加害者への対応では警察に届けることが一つありますが、なかなか警察に届けることはハードルが高い。「どうしたらいいか」と思われる場合、京都SARAにきてもらうと警察にこちらから連絡して一緒に行くこともできます。これも覚えておいていただきたいのですが、どこの警察に届けるか。「警察に行ったけれど、同じ話を何回もさせられた。すごく苦痛だった」ということがあるのですが、よくあるのは最寄りの交番に行ったり、自分の住んでいるところの警察署に行った場合。実は捜査ができる管轄は被害にあった場所か、加害者が住んでいるところの警察署です。管轄でない場合は話を一通り聞いた上で「自分のところで捜査できないので管轄署に連絡します、もう一回、同じ話をしてください」となったりします。加害者の住所地、被害にあった場所はわかるが、管轄がわからなかったら調べてそこに行く必要があります。すぐだったら110番通報したら警察が来てくれますが、しばらくたってから相談にいく場合は事前に予約をした方がいいです。性犯罪被害なので女性の被害者を前提した場合、女性の警察官を希望する。男性の被害者で男性の警察官がいい場合は、そういわれたらいいかと思います。警察でのたらい回しにさた、いやな思いをすることも、こういった知識があることで減らせることかできるかと思います。また、京都SARAでは京都弁護士会と連携して無料の法律相談を受けることができます。法テラスで3回までは無料相談も受けられますので弁護士に相談するのも一つの方法と思っていただけるといいと思います。あとは大学に相談することも重要かと思います。人権教育研究センター、学生相談室のカウンセラーの方に相談することもあると思います。京都SARAでは警察や弁護士会にも同行支援をしています。
次に心のケアについてですが、ASD(急性ストレス障害)、PTSD(心的外傷のストレス障害)というのは、性暴力とか、大きな事件や災害などトラウマを体験した後で、心身にさまざまな深刻な影響が出てしまうことは、ある意味、当然の反応なんですね。怖い目にあって普通に生活できていることの方が不思議なわけで、そんなことがあったらドキドキして警戒するようになったり、眠れないとかご飯が食べられないとか、それはあたりまえのことです。時間がたてば、だんだん落ち着いていく。ずっとこのままではないので大丈夫です。それでも受け止めきれなくて後遺症が残ってしまう場合はカウンセリングなど適切なケアを受ければ回復は可能です。ウィメンズカウンセリング京都で10回まで公費負担のカウンセリングを受けられたらいいのではないかと思います。性的虐待など長期間被害にあっている場合などは回復に時間がかかることがありますが、一回の被害の場合、すぐに相談してカウンセリングを受けてもらうと回復は早いです。なかなか回復が難しい方もいらっしゃいますが、二次被害を受けている場合ですね。二次被害というのは性暴力とかDVなどの被害を周りの人に「助けてもらいたい、力にもってもらいたい」と思って相談する。相談した相手から「それって、あなたのせいじゃないの」「なんで逃げなかったの?」などと逆に傷つけられて責められる。それを「二次被害」といいます。この二次被害が実はレイプやDVなどの被害以上に被害者を傷つけて後々まで影響が残ることがあります。レイプとか性暴力の加害者に対しては、とんでもないモンスターのような人だと思う。でも「助けてくれる」「わかってくれる」と思う相談相手は自分と同じ価値観を共有している人だろうと思っている。「わかってくれるはずだ」と思っている人から「あなたの方がおかしいよ」といわれると「自分の方がおかしいのか。自分が間違っているのか。自分が世の中、社会にちゃんと適応できていないのではないか」と孤立感をもつようになって、その打撃が深刻になってしまうんですね。周りの人から「あなたが悪いのではないか」と直後に言われると、なかなか回復が難しいことがあります。そういう「二次被害」を周りの人たちが絶対にしないことが大事ですね。周りの人も相談してきた被害者を傷つけようと思ってわざわざいう人はいない。そういうことを知らず知らずに言ってしまう背景には「性暴力、強姦はこういうものだ」という事実とは違う間違った思い込みがあるのではないかということですね。
性暴力についての認識について考える
刑法の性犯罪が2017年7月から110年ぶりに大幅に改正されました。「刑法強姦罪」ではなく、「強制性交等罪」に変わっています。その他にも加害者が男性、被害者が女性と以前は限定されていましたが、今は被害者も加害者も女性に限定されていません。男性も女性もセクシュアル・マイノリティの方も含めて全部、強制性交等罪で処罰されるようになっています。刑法の性犯罪の改正が議論されている時に、NHKの朝イチという番組で「無関係ですか? 性暴力被害にあうのは女性が悪いからですか?」という特集が組まれました。「性行為の同意があったと思われても仕方がないというのは、次のうちのどれですか?」と一般の方にアンケート調査をされました。「二人きりで食事に行ったら性行為の同意があったと思われても仕方がない」という人が10数%、「二人きりでお酒を飲みにいった」は27%くらいの人が「それはセックスの同意があったよね」と回答しています。「車に乗る」が25%、「露出の多い服を着ていたらセックスOKでしょう」という人が20数%、泥酔していたら、もう35%の人は「何をされてもおかしくない」という回答がありました。これって、どう思われますか? この番組が放映されている時、スタジオのコメンテーターの男性が「泥酔していたら意識がないから合意なんて、できるわけないじゃない」と言っていました。そうですよね。「その人が望まない性行為は性暴力です」。お酒を飲んで意識がないのにセックスをするのは明らかに性暴力ですけれども、「飲んで酔っぱらって意識がなくなっている女の人が悪いでしょう、そんな人、何かされたって文句いえないでしょう」というのが、ある意味、世間の強姦に対する一般的な認識ということがあります。でも、「こういうことをしたら被害にあっても当然でしょう」といわれる中で、強姦被害でよくいわれるのは「被害者がなんで助けを求めなかったの、抵抗しなかったの?」と言われることがあります。被害者は被害にあった時、そういう行動をとれないことも、科学警察研究所の研究員の内山さんが「警察に被害届を出して被害が認知された件」について調査をされたものですが、「何もできなかった」という人が25.5%いました。「被害者はその時、何もできないことがある」ということが一般的なんですね。「被害者が露出した服装をしていた」とか「被害者の方が誘っていたから被害にあったんだろう」「加害者は、そういう人を襲うんだろう」という一般的な思い込みがあるんですが、この内山さんの調査では「加害者が被害者に目をつけた理由」は「大人しそうに見えた」というのが37.4%、「警察に届けることはないと思った」37.2%、これが理由として多かった。「挑発的な態度」は6.7%、つまり加害者は自分が警察に捕まらない、安全な状態で犯罪行為が行なえる相手を選んで目をつけて付け狙うとか、周到に計画をして犯罪行為を行なっています。実は性犯罪の加害者は常習的な人が圧倒的に多いといわれています。捕まってしまった時には、すでに複数の被害者が存在してしまっているのです。被害者の方が「もっと注意をしていれば」とか「被害者が挑発的な態度をとったから、そういう目にあったんだろう」と被害者を責めることは「性暴力」の実態とは違います。実態と違うところで被害者が責められると傷ついて、なかなか回復できないことがあります。
性暴力についての認識について考えるために紹介したい動画があります。ユーチューブで検索していただくと出てきます。イギリスの警察が2015年に公開した「性行為の同意を紅茶に置き換えてください」というものです。「紅茶を飲みたいですか?」と訊いて「飲みたいです」といわれたら「紅茶を入れましょう」。「紅茶を飲みたいですか?」と訊いて入れている間に、その人が「もう飲みたくないな」と思ったら無理やり飲ませることはだめです。もしその人が昨日、「飲みたいな」といっていても「今は飲みたくない」とか、その人が意識をなくして寝ている状態の場合は、まず安全の確保が必要です「大丈夫ですか?」といって無理やり紅茶を飲ませてはいけないというような内容です。口で説明するより動画を見てもらうのがいいのですが、「紅茶を無理やり飲ませたらいけないよね」ということと「セックス」とを置き換えて考えてみたら、わかりますよね。「意識がない人に無理やり紅茶を飲ませることはやってはいけないこと」と同じように「セックスもしてはいけない」。そういう意味での「性的な同意」を若いうちから、女性も男性も、ちゃんとわかっておくことが大事なことだと思います。もしかしたら性暴力の加害者に「そんなつもりじゃないのに」「相手を傷つけるつもりじゃないのに」といういいわけで、被害者に一生、そのことで男性とかセックスって汚いなどと思わせてしまう、それって、すごく悲しいことですよね。本当はその人のことが大切で、その時、一緒にセックスしたいと思い、お互いが同意して、することはとても楽しいことだし、すばらしいことだし、ハッピーなことですよね。それを皆さん、これからいっぱい経験できるはずです。でも「性的な同意」がわかってないと、それが犯罪だったり、性暴力だったり、相手を傷つけてしまうことになる。この違いを考えてほしいと思います。
性暴力の被害者にも加害者にもならないでほしいですし、もしかして残念ながら、そういうことが起こった場合、周りにいる友だちの立場で、どういうことができるでしょうか。まず必要な情報を知らせていただきたい。一つは京都SARAを紹介していただきたい。それと被害者のことを絶対に責めないこと。「なんでついていったの?」「逃げたらよかったのに」「あなたが悪い」「加害者のことを許してあげたら」とか、そういうことをたとえ思ったとしても相手にいわないこと。そして被害者が何をしたいのかを大切にする。「警察に行くべきだ」とか「大事にしない方がいいよ」とか自分が思ったとしても、それは被害者が思っていることと違うかもしれない。被害者の意思を尊重していただきたいと思います。被害には絶対にあわないことがいいんですが、被害にあってしまった場合は絶対に自分を責めないでください。DVも性暴力も被害者に責任はありません。加害者が、そういうことをしようと思ったから、それが起きたわけで、何かきっかけがあったにしても加害者には「それをしない」という選択がある。加害者が選択してやっている。加害者の選択に被害者が責任をとる必要はありません。そして誰かに相談していただきたい。相談してわかってくれなかったり、傷つけられた場合は、理解してくれそうな人を探す。それといやなことをされたことは記録に残すことは苦痛かもしれないですけれども、残しておいていただきたい。それと悪質なスカウトが最近、事件で捕まったりしました。京都の大学生が、女子大学生を誘って、いっぱい借金をさせて性風俗で働かせるという事件がありました。それって恋愛がらみで被害者が相談しにくい状況があると思いますし、「自分が悪かった」と思うかもしれませんが、それも被害なんですね。「性的な搾取」という被害ですね。「おかしいな」「どうしようかな」と思ったら、ぜひ相談していただきたいと思います。こんなことも覚えておいていただきたいなと思います。ありがとうございました。