人権教育研究センター

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人権週間

第25回花園大学人権週間 講演2

安全神話の崩壊

澤守 豊文

 今年の花園大学人権週間・12月7日には、川野眞治先生に講演していただきます。先生のご経歴は…1942年大分県中津市生まれ、1969年京都大学大学院理学研究科博士課程を修了、同年大阪府熊取町にある京都大学原子炉実験所に入所、2005年退官、現在は同志社大学工学部で非常勤講師をされています。
 川野先生が京都大学理学部に入学されたのは1960年、在学中は安保闘争があり学生運動が盛んな時期でした。先生は原子力とは無縁の学生だったそうです。しかし、先生が在学中の1964年頃から原子炉実験所が本格稼働し人員を増勢していたため、原子炉実験所へ入所されることになりました。原子炉の保守管理等を業務とする傍ら原子力を専門研究とする仲間達と共に研究を進められました。ビッグサイエンス(巨大科学…多数の研究者と多額の資金を必要とする自然科学の研究分野、国家または国際的な規模になるものが多い)の職場で研究活動されていたこともあり、科学の社会的責任を考えることになったそうです。 その後日本では1970年頃から原子力発電所が稼働し始め、当時は「夢のエネルギー」として、国を挙げての原発施設の建設・稼働が推し進められることになり「原発は安全」と言われ続けてきました。しかし原子力学者の中には、当初から原子力がもつ負の側面を予見していた人達がいました。川野先生もその一人です。
 そして現在に至るまで、国内・海外を問わず原発での事故はあとを絶ちません。2010年度の一年間に日本国内の原発で、大小あわせて307件もの事故・異常がありました(原子力施設情報公開ライブラリーNUCIA)。日本国内だけで、一日一件近い割合でどこかの原発で事故が起きたり異常が報告されたりしているわけです。原発の保守点検作業は主として人の手で行われます。原子炉に近い場所での作業や放射性物質が漏れた事故後の除染作業では、被曝することが仕事だとでもいうように非常に強い放射線のもとでの労働が強いられます。原発を稼働するには、ウラン鉱石の採掘にはじまってウランの精錬・濃縮、燃料の加工製造、発電した後の放射性廃棄物の処理・管理まで行わなければなりません。それぞれの各段階において、放射性物質の放出と労働者の被曝が避けがたく付いて回ります。
 更なる問題として、核エネルギー利用は、商業利用としての原子力発電・軍事利用としての核兵器とに分かれているように見えますが、両者を支えるウラン濃縮や使用済み燃料処理などの基本的技術は共通しています。日本は、使用済み燃料再処理過程で分離したプルトニウムを高速増殖炉(福井県敦賀市・もんじゅ:現在事故停止中)で利用する方針です。しかしこの技術は大変難しく危険であり、また核兵器拡散の可能性もあります。日本は非核三原則…核兵器を作らない・持たない・持ち込ませないという事を掲げてきましたが、「核兵器製造の経済的・技術的能力は常に保持し核武装の選択の可能性を捨ててしまわない」という政策が見え隠れしています。使用済み燃料の処理から出てくる高レベル廃棄物の(最終)処分の行方は現在でも未確定で、フィンランドのオンカロ(現在建設中の地下520メートルの最終処分場)のように核廃棄物として処分することも出来ません。原発の運転が続けられれば使用済み燃料はさらに溜まり続け、この先ずっと管理していかなければなりません。
 さて、皆さんご存知の通りですが、3月11日に東日本大震災・津波が起きました。そして福島第一原発事故…自動緊急停止・全交流電源喪失・冷却系統故障・核燃料温度上昇・メルトダウン(核燃料および炉内構造物が融け落ちる炉心溶融)・設備損壊・水素爆発・大量の放射性物質の環境中への放出、が起こってしまったのです。国際原子力事象評価尺度(INES)に基づく事故レベルは、「レベル4:敷地外への大きなリスクを伴わない事故」(1999年・東海村JCO臨界事故と同じ)→「レベル5:敷地外へのリスクを伴う事故」(1979年・アメリカ・スリーマイル島・炉心溶融事故と同じ)→「レベル7:深刻な事故」(1986年・チェルノブイリ・炉心核暴走事故と同じ)となり、関わった施設の規模からいって「史上最悪の事故」となってしまいました。放出された放射性物質が福島県全体を強く汚染しただけでなく、東日本・関東一帯へもヨウ素131やセシウム137などの放射性物質が飛来し、海洋にも汚染が広がってしまいました。今回の放射能汚染は、チェルノブイリに匹敵すると言われています。チェルノブイリ事故から25年経った今もなお、現地のウクライナ・ベラルーシの人々は放射能汚染に苦しめられています。 そもそも原発において地震が起きた時のリスクは高いのですが、地震が頻発する中で多数の原発がある国は日本だけです。東日本大震災が起こる以前、東海地震の予想震源域のど真ん中の浜岡原発(静岡県御前崎市:現在停止中)が「これ程危ない状況の原発は世界で他に無い」と言われ続けていました。日本において、原発事故により大規模災害の起きるリスクがあるのは、福島原発だけではないのです。
 はたして、原発事故の詳細・被害状況・放射能汚染の実態を、政府・電力会社・関係機関は正確に我々に伝えてきたのでしょうか。核エネルギーを軍事はいうまでもなく発電に使って良いのでしょうか。これからの社会のエネルギー問題・これからの我々の生き方を、一人ひとりが把握し考えなければならないのではないでしょうか。
 今度の川野先生のご講演のテーマは「フクシマ事故を考える:なぜ、どうなったのか、放射能と向き合う」です。原子力技術の諸問題・福島原発事故・放射能汚染・被曝被害等についてお話いただきます。

(さわもり・とよふみ=大学院仏教学専攻)