第30回花園大学人権週間 前夜祭
映画「さとにきたらええやん」に期待する
吉永 純
私のゼミでは、ここ数年、日本の貧困の縮図である、大阪・釜ヶ崎でフィールドワークに行っている。フィールドワークのハイライトの一つが、釜ヶ崎で子どもたちへの支援の拠点である「こどもの里」の訪問だ。今回、人権週間の前夜祭で上映する「さとにきたらええやん」は、「こどもの里」で育つ子どもたちや、困難を抱えながら里や町の大人に包まれて成長する子どもたちが活写されている。親の側の苦しさや、親子が互いを思いやる姿にも迫っている(2016年6月3日朝日新聞)。
こどもの里は、釜ヶ崎のこどもたちの遊びと学び、生活の場である。釜ヶ崎で生きるこどもの権利を守る「こどもの里」には、大きな信念が二つあり、一つは、こどもの最善の利益を考えることだ。安心して遊べる場・生活の場と相談を中心に、常にこどもの立場に立ちこどもの権利を守りこどものニーズに応えることを、モットーとしている(安心)。もう一つは、こどもの自尊心を守り育てることだ。自分に与えられた境遇の中でこども(人)のもつ「力」を発揮、駆使してたくましく生きているすばしいこどもたちを、社会の偏見や蔑視から守り、自信を持って自分の人生を選び進めるよう支援することだ(自信・自由)(「こどもの里」ホームページより)。
こどもの里の理事長である荘保共子さんを初めて知ったのは、2003NHKスペシャル「父ちゃん母ちゃん、生きるんや ~大阪・西成 こどもの里~」を見たときだった。この番組では、西成で生活する3つの家族が紹介されている。その子どもたちは「こどもの里」で生活したり、支援を受けている。それらの家族に共通するのは、父子家庭、母子家庭であること、そして親が病気だったり障害があったりで、かなりのハンディキャップを抱えていることだ。そうした困難があるにもかかわらず、いずれの家族も、子どもたちの前向きの生き方に親が触発されて少しずつ立ち直っていく。子どもの無限の力を描いた感動的なルポルタージュだ。
番組に登場する荘保さんは、「西成の子どもたちは,すごく目がきれいだ。」、「こんなにきれいな目の輝きに魅せられて西成で活動している」と言う。また、母親から売春を強いられていたある女の子の言葉が忘れられないともいう。その女の子は、荘保さんの前で、号泣して「大人は大嫌いだ」と言いながらも、「お母さんは大好きだ」とも言ったという。荘保さんは、この女の子の、親を思う言葉が忘れられないという。
現在、こどもの里の児童登録数は122名おり、内訳は、幼児44名、小学生49名、中学生15名、高校生14名となっている(2014年3月現在)。また、昼間親不在児童数は79名、一人親家庭児童数は49名、障がい児・者数は16名、親が外国籍は16名いる。また、こどもの里で働く職員は6名である(うち一人は花園大学の卒業生の次郎さん)。
この映画は、こどもの里で生活する子どもたちを生き生きと描き、その可能性を確信させる。貧困が拡大し、混迷を深める現代社会において、私たちは、何に希望をもって生きるべきか、子どもの貧困を解消し、希望ある未来を築くにはどうしたらいいのか。「さとにきたらええやん」は、その原点を再確認し、私たちに元気を与えてくれるドキュメンタリーである。
(よしなが・あつし=人権研センター副所長・社会福祉学部教授)