人権教育研究センター

附属機関 人権教育研究センター

人権週間

第29回花園大学人権週間 前夜祭

「いのちがいちばん輝く日」って、いつ?!

西澤 直美

「いのちがいちばん輝く日」

死によって受け継がれる、”いのち”がある「いのちがいちばん輝く日」
-あるホスピス病棟の40日-

私がこの映画タイトルを見て、真っ先に頭に浮かんだのは、「いのちが誕生する日」。
そりゃ、人間がこの世に生まれる日でしょ?!と思った。
赤ちゃんがこの世に生まれ、産声があがった瞬間、どれだけ輝いているだろう。

しかし、私のこのイメージを完全に打ち破ったのが、この映画。
人がぜったいに逃れることができない「死」を、「いのちがいちばん輝く日」として描いた、ヴォーリズ記念病院のホスピス棟「希望館」での40日を追ったドキュメンタリー映画である。
この映画が観る人の心に響くのは、感動するであろうと計算されたセリフや、その効果をねらったベストなカメラアングルで撮影された「ドラマ」ではなく、得てして聞き取りにくい会話や、カメラの前を人がよぎったりする場面さえあるという完全な「ドキュメンタリー」であるからだ。

この映画を観ながら、私はいつしかその映像の中に、「自分」を見出していた。
私は、父と母の、がんの末期症状でやつれ衰えていく姿を、何にもできずに見るしかできず、そしてそれぞれを見送った。
いや、正確には見送ってはいない。
結局、二人とも、その瞬間に間に合わなかった。
旅立つその姿を見守って、手を振ってあげることができなかった。
当時を思い出すと、この二人の「死」を、自分自身が全く余裕のないままに、ただ自分の前を流れる川を眺めるかのごとく、みつめることしかできなかったように思う。
あの日、父も母も、ありったけのいのちを振り絞って、最後に輝いていたというのに。
そしてさらに、来る自分の終焉の瞬間をイメージしようと試みた。14年ほど前に、がんの宣告を受け、一時は「死」を覚悟した自分ですらも、今は他人事にしか思えない。
この映画に問いを投げかけられた気持ちになった。

さて、ホスピスとは一般的に、「緩和ケア」というがんによる痛みなどの症状をコントロールする医療が行われているところだ。患者さんたちは、少しでもその痛みから逃れ、そして和らぐことによって、穏やかな日々を過ごすことができる。

映画監督の溝渕雅幸氏は、こう続ける。
「希望館でももちろんこの緩和ケアが行われているのですが、私なりに感じたことを誤解を恐れずに言えば、細井さん(※ヴォーリズ記念病院ホスピス長)にとって、緩和は目的ではなく手段であると言うことです。医療機関としてのホスピスである以上、たとえ治らなくても患者さんの症状改善に努めるのは当たり前であり、そのことに注力することもまた当然と言えば当然のことです。しかし、細井さんにとって最も重要なことは、症状をコントロールすることで患者さんにその日一日に命(穏やかな時間)を与えることであって、そのことで患者さんや家族に、近い将来に訪れる旅立ちの日のための準備をしてもらうことにほかなりません。良く生きることで良い死を迎えてもらいたいと、細井さんは考えているのです。」       (※映画パンフレットより抜粋)

行きとし生けるものである限り、その「生」には必ず終わりがある。
「生」と同様に、終焉である「死」も、誰もが平等に与えられている。
「生」と「死」は、「いのち」のリレー。
この映画は、その「いのち」のバトンを渡す瞬間がいちばん輝くように、その前後、患者さんとその周りの人たちのために、何ができるのかを問い続けるホスピスのドキュメンタリー。
この映画は問いかけます。
「いのちがいちばん輝く日」って?
この映画は、「生」と「死」を手段として、一人一人に問いかけている。
さて、あなたはこの問いにどう答えますか?

溝渕雅幸監督作品「いのちがいちばん輝く日」-あるホスピス病棟の40日-
みなさんに是非観てほしい作品です。

(にしざわ・なおみ=就職課職員)