第32回花園大学人権週間 講演1
玉城ちはるさん(シンガーソングライター・ホストマザー)
◆プロフィール◆
1980年生まれ。広島県出身。大学進学時に父が自殺で他界し、進学を断念。このことがその後の人生に大きな影響をもたらす。19歳で上京、音楽や芸能活動を始める。24歳の時偶然の出会いから中国人留学生の面倒をみることになる。その後「自身に出来る社会貢献」としてアジア地域の留学生支援活動「ホストマザー」を10年間継続、36名の留学生を送り出し、その模様がNTV系「24時間テレビ」やNHKなどで取り上げられる。
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玉城ちはるさんようこそ花園大学へ
自己や社会を見つめ直すきっかけに
中 善則
今年度の人権週間の講演者として、私は、玉城ちはるさんを推薦しました(実現して本当にうれしい!)。そして、推薦人ということで、玉城さんの紹介文を書く依頼を、人権教育研究センターから受けました。きっと、玉城さんのことに詳しいと思われてのことでしょう。しかし、実は、私は、玉城さんが、何者かわからないのです!
●玉城ちはるさんとの出会い
玉城さんとの出会いは、朝のラジオ番組でした。ある日、その番組のゲストとして出演していた玉城さんの愉快なお声が、私の耳に飛び込んできたのです。その多彩(バラバラ(笑))な活動内容や透明感溢れる歌声に、私は、すっかり虜になりました。そして、その時から、大学へお呼びしたい。直接、お会いして、学生たちと、この方は何者なのか確かめたいという思いに駆られてしまいました。
玉城さんの経歴や活動を、ごくごく、簡単に紹介しますと、大学在籍中にお父様が自殺され、中退せざるを得なくなったこと。その葛藤のなか、23歳の時から、10年間、中国・韓国人など計36人のホストマザーになり、「子育て」をしてきたこと(23歳で、「お母さん」になったんだ)。加えて、シンガーソングライターであること。その他、広島・長崎を中心とした平和イベントや、自殺防止イベント、「学校を建てようミャンマープロジェクト」にも取り組まれています。また、はたまた、『餃子女子』という本も出版。そして、今回、依頼した「命の参観日」と題する講演に、全国の小中高大学に出向かれています。なんと、活動の多岐にわたっていること!(何者かわからないでしょ)
この原稿を書いている某日、テレビに出演されるとお聞きしたので、大好きな歌でも聴けるかと思い、見てみると、な、なんと、広島弁で、豪快に、ギョウザについて語っているではありませんか。う~~む、気を取り直して(笑)、YouTubeで、歌の動画を見る(聞く)。そこには、玉城さんの表情豊かで穏やかな優しい笑顔、そして、心に染みわたる手話を交えた歌声が流れていました。
●「人間賛歌」と「多様性」
このように書き切れないほどの玉城さんの活動のなかから、学生には、あったかな「人間賛歌」とホストマザー等の経験からの「多様性」についてのお話を聞いてもらいたいと思います。また、それと同時に、玉城さんの溢れるエネルギーを感じ取って欲しいです。そして、一見、バラバラに見える玉城さんの活動すべてに貫かれている、彼女の「芯」を、発見してみたいですね。
あったかな人間賛歌・・・玉城さんの名曲の数々の中でも、私は、「私は生きてる」が好きです。左の歌詞を見てください。生きてくのは苦しいときもあるし、笑えない時もあるかもしれません。でも、玉城さんが届けてくれる、「私は生きてるんだ!」って想い、素直に受け止めてみませんか。あったかい気持ちになること、間違いないでしょう。
私は生きてる
作詞 玉城ちはる・入倉都
作曲 入倉都
歌 玉城ちはる
「生まれてこなければよかった」
そんなこと思ってはいけませんか?
生きるのは苦しい
愛すると悲しい
夢見たら辛い
笑うなんてできない
「そうだね」あなたはうなずいて
震える体を抱き寄せた
生きるのはうれしい
愛するとあったかい
夢見たら楽しい
笑いあう喜び
胸が熱くなって涙が溢れてくる
思いきり深呼吸 私は生きてる
生きるのはうれしい
愛するとあったかい
夢見たら楽しい
笑いあう
生きるのはうれしい
愛するとあったかい
夢見たら楽しい
笑いあう喜び
私は生きてる
「多様性が尊重される社会に」・・・この言葉は、だれもがそう思う言葉です。しかし、「思う」と「心の内に棲ませる」ことは違います。全く違う。というのは、私自身、「セクシュアリティ」に関して、大いに反省していることがあるのです。私は、学生に対して、ずっと(大学へ着任してからの数年間)、学務課からもらう名簿に記入されている性にあわせて、男性なら「○○君」、女性なら「○○さん」と区別して呼んでいました。ところが、ある日、「龍谷大学におけるセクシュアルマイノリティの現状とニーズに関するアンケート報告書」(1)に目を通す機会がありました。そのアンケートは、セクシュアルマイノリティの現状を把握することを目的として実施されたもので、858人の回答のうち、130人(15%)がセクシュアルマイノリティを自認している、とのことでした。この結果から、「セクシュアルマイノリティとはごく身近で当たり前の存在であること、大学内で、日常に嘲笑的言動が生じていることや、『話のネタ』として使われることも多く、無自覚・無理解の発言が相手を傷つけている結果が明らかとなりました。特に教職員の発言は、学生への影響力が大きく、セクシュアルマイノリティに対する教職員の理解を深めることが重要であると言えます。・・・(中略)・・・その他、『出生時の性が女性』の『学生』411人中13人(3.2%)が、『自認する性』がわからないと回答し、36人(8.8%)が『好きになる性』がわからないと回答しました。自らのセクシュアリティが定まっていない人や、揺れ動いている人が多いのではないかと推測できます。」とまとめられています。このレポートを読んでから私は、学生には、すべて「○○さん」と呼ぶことを宣言し、以後、そのように努めています。
人は、さまざまな属性をもっています。そのなかで、多数派のほうに入る属性に関しては、少数派の方々のことを想像することは、とても難しいものです。でも、その属性に関し、沈黙を強いられている人、自問し続けている人、周囲の無理解に落胆している人、仲間と立ち上がろうとしている人など、様々な方がいらっしゃるでしょう。ですから、私たちは、繰り返し、繰り返し、「多様性」についての語りに触れ、学び、自身と社会のあり方を見つめ続けなければなりません。
●当日、会場で!
玉城さんの講演で触れられる「多様性」は、外国人へのホストマザーの経験から、「多文化共生」の観点からのお話が中心かもしれませんが、私を含め、聴衆が、自己を見つめ直すきっかけとなることでしょう。誰もが「フラットに存在し、補い合う社会」(2)をつくるための貴重な機会としたいものです。
当日は、学生の表情や反応に合わせ、玉城さんは、縦横無尽・融通無碍に語り、歌ってくれることと思います。玉城さんと参会者で、またとない空間が生まれると信じて、その日を楽しみにしています。会場でお会いしましょう。
(なか・よしのり=人権研センター研究員・文学部教授)
<参考資料>
(1)龍谷大学人権問題研究委員会「龍谷大学におけるセクシュアルマイノリティの現状とニーズに関するアンケート報告書」2017年3月1日 龍谷大HPからも読むことができる。 https://www.ryukoku.ac.jp/news/detail.php?id=9039 (最終閲覧 2018年9月16日)
(2)この言葉は、「アメラジアン」(米国人とアジア人を両親に持つ子ども)を父親に持つ黒島トーマス友基さんの発したもの。黒島さんの、自身のルーツを見つめる足取りが、「アメラジアン 僕は何者?」(下地毅 朝日新聞2018年9月11日)に、まとめられている。参照されたい。