人権教育研究センター

附属機関 人権教育研究センター

人権週間

第32回花園大学人権週間 講演2

大阪府立松原高等学校のみなさん(先生と生徒さんたち)

松原高校写真.jpg

◆プロフィール◆
松原高校は「地元に通える高校を」ということで、地元の中学生たちが運動をし1974年にできた高校。同校の「目的と原則」には、一切の差別を許さない学校、落ちこぼれを許さない学校、地域に根ざした学校 の三原則が掲げられている。

※※※※※

「1ミリでもいいので自分たちのできることをやりたい。社会が変わるきっかけにするために」
~高校生たちは「貧困」にどう向き合ったか/大阪府立松原高校の取り組み

吉永 純

 「子どもの貧困」が世間の注目するところとなり、2014年には子どもの貧困対策法が施行され、一定の施策展開がみられます。本学でも、中3学習会「ひまわり」が、右京区山ノ内において、地域の民生委員の方や母子生活支援施設・野菊荘の支援を得て、中学生の学習支援に取り組んでいます。
 しかし、当の子どもたちや若者は、子どもの貧困についてどのように考えているのでしょうか。当事者中心の福祉が叫ばれて20年ほど経ちますが、子どもたちが貧困をどのように受け止め、またどのような取り組みを行っているかは、意外なほど明らかではないように思われます。
 この点で、先駆的な取り組みの一つが、今回の人権週間でお話しいただく、大阪府立松原高校の取り組みです。高校での総合学習「産業社会と人間」の一つのジャンルとして「ライツ」(人権)を選んだ4人の生徒たちは、「誰もが自信をもって生きていける社会は実現可能か」をテーマに、貧困についての学習を進めます。しかし、ネットでは、生活保護には、「甘えている」など悪印象のある言葉ばかり。生徒たちは、近鉄南大阪線河内松原駅などで、貧困は自己責任かについて街頭でアンケート調査を試みますが、100人の回答者のうち、「貧困は自己責任」+「わからない」=40%を占めたのに衝撃を受けます。
 生徒たちは生活保護について真剣に話し合います。そして、ある生徒は、自分の家はお父さんが病気で働けないため生活保護を受けていることを打ち明けるに至ります。メンバーたちは生活保護を利用している生徒の困難さを受け止め、さらに取り組みを進め、役所のケースワーカーへの突撃インタビューなど意欲的に取り組みを進めていきます。
 そして、生徒たちが「誰もが自信をもって生きていける社会」を実現するために達した結論は二つです。一つは、隣に信頼できる人がいること、つまり、人とのつながりです。二つには、自己責任だと思っている人と関わることによって自己責任論を克服することです。さらに、生徒たちは、松原高校の食堂を借りて「みんなの食卓」をやることにしたのです。そこは、高校生はもちろん、地域のお年寄りから誰でも来れる場所として開かれる居場所です。
 松高生の取り組みは、根強い自己責任論を乗り越え、貧困を根絶するために何が必要か、そうしたことをやり遂げる主体をどのように形成していくか、示唆に満ちた取り組みであり、私たちに勇気を与えるものです。皆様のご来場を心からお待ちしております。

(よしなが・あつし=人権研センター所長・社会福祉学部教授)