2023年度前期学位記授与式を挙行しました
暑さを避けて涼しさを味わう今日9/29(金)、本学教堂において「2023年度前期学位記授与式」を挙行しました。
本日をもちまして、14名の学部生の皆さんが卒業を迎えました。
花園大学での学生生活は有意義なものとなりましたでしょうか?
ここで培った経験を糧に、それぞれのフィールドでこれからの人生を歩んでいってください。
ご卒業おめでとうございます。
【 式辞 】
本日ここに学位記を受け取られた皆さん、おめでとうございます。皆さんのこれまでの努力と学業への専心に敬意を表し、花園大学教職員を代表して、心よりお祝いを申し上げます。皆さんを励まし支えてくださったご家族の方々にも、感謝と祝福の意をお伝えしたいと思います。
この秋、14名の学部生が卒業を迎え、その内訳は文学部8名、社会福祉学部6名です。本日、学位記を手にされ、ここに至るまでの苦労や仲間と共に経験した感動など、様々な思いを巡らせていることと思います。
皆さんの学生生活は、これまでの先輩たちとは大きく異なるものとなりました。「人類の歴史の大波」にのみ込まれてしまったのです。
まず、2020年初頭にコロナウイルス感染症が広がり、それがまん延する中で大半の学生生活を送られました。また、昨年2月に起こったロシアのウクライナ戦争は1年半経った今も続いています。このコロナと戦争により私たちの全く知らない新しい世界が眼前に聳え立っています。その新しい世界の出現に驚きと恐怖を感じざるを得ません。
佐々木毅先生がおっしゃるとおり、「人間は自らの経験に暗黙に寄りかかりながら事態の変化に対応して生きているが、自らの経験が所詮は「自らの」経験に過ぎず、人類の歴史の経験の大きさに比べていかに間尺の違うもの――「想定外のもの」――なのかを思い知るに至って、寄りかかれるものを失い、手の施しようがない姿で歴史の大波にのみ込まれてしまう」。
人類の歴史は人ひとりの経験をはるかに超えています。人類は何度もペストに襲われ、中世ヨーロッパでは人口の3割以上が死亡したとも言われています。日本では感染症をコントロールしたと考えられていましたが、そのような想定は「現在の日本人」の経験に基づく想定に過ぎなかったわけです。
また、20世紀は戦争の世紀といわれました。第一次世界大戦、第二次世界大戦、朝鮮戦争、ベトナム戦争、多くの戦争が世界各地で勃発しました。しかしながら、日本は、1945年以降一度も戦争を経験することなく、約80年が過ぎようとしています。戦争の世紀は終わったはずでした。それにもかかわらず、昨年1年間で思い知らされたのは、21世紀にも戦争が身近な問題として続くということです。そして、その戦争が全人類の平和と安寧を脅かすということです。
コロナと戦争は世界を変えました。すなわち、グローバリゼーションの時代が終わりました。グローバリゼーションのもとでは、経済がすべてで、政治はそれを支える役割でした。しかし、グローバリゼーションはかつての輝きを失い、政治が発言権を増していきます。社会も文化も発言を増していきます。世界は変わります。
特に、問題提起しておきたいのは、S.ズボフ(Shoshana Zuboff)が問い続けている「デジタルの未来は私たちの家(ホーム)になり得るか」です。デジタル化時代の資本主義「監視資本主義」は、人間の経験を、行動データに変換するための無料の原材料として一方的に要求する。さらに、人々の経験から取り出された膨大な「行動データ」が、AIを装備した生産過程に投入され、「予測製品」(人間の行動を予測し、意識させないで後押しする商品〔ターゲット広告、データマイニング、ポケモンGO等〕)に加工され市場で売買される。GAFAM(Google, Amazon, Facebook, Apple, Microsoft)等支配的影響力を持つIT企業群が先導するこの「監視資本主義」に対して私たちはどう対応すべきなのでしょうか。考えていかなければなりません。
このような時代に当たって私は皆さんに言いたい。困ったことがあったら書を読もう。学問をしよう。学問は研究を通してそれまでの命題を批判的に検討し、新しい枠組みを提案する普遍性を有しています。「自らの経験」を超える命題であればあるほど、学問との親和性が強くなります。大学で学んだ書を引っ張り出して読み直してください。また、新しい学問を紐解いてください。迂遠なようですが、学問が皆さんをこの「人類の歴史の大波」から解放してくれます。学問がいつまでも皆さんを守ってくれることを祈っています。
次に、建学の精神を思い返していただきたい。本学の建学の精神は「禅的仏教精神による人格の陶冶」です。その目的は臨済宗の宗祖である臨済禅師が「随処に主と作れば、立処皆な真なり」と言われるように、どの様な状況であっても主体的に行動できる、自立性・自律性を養成することです。この建学の精神の下で学ばれた皆さんは自ら立つ自律の精神を獲得されています。変化の大波の渦の中でも、自分を見失わず、目的に向かって歩んでいくことができるでしょう。
21世紀になり、人々は民主主義そのものに疑念を抱くようになりました。歴史の進歩の先には民主主義と自由主義が必ず実現するというような理想論は捨てるべきなのでしょうか。
しかし、私は希望を失っていません。「自由民主主義は基本的に漸進主義と政治的・社会的選択を基盤にするものであって、そのこと自体、展望を難しくする最大の原因と考えられ」ます。だからこそ、ハンナ・アレントが論ずる「許し」と罰のメカニズム、そして、「約束の力」によって、21世紀を切り拓いていくことができると信じているからです。
「許し」は過去の行為とその結果から双方を解放し、自由にするものです。そして、罰は許されるものであることを踏まえた上での対応であり、「復讐」とは全く位相を異にするものです。「約束」は主体の多様性を前提にしつつ、人間の自由の持つ不確実さとその中で発生しうる予見不可能さの大海に対して、予見可能性の「小島」を人為的に創出しようという試みです。
私は人を信じます。特に若者の力を信じています。皆さん、苦難を恐れず、際限のない社会の「大海」へ漕ぎ出していってください。
卒業、誠におめでとうございます。
令和5(2023)年9月29日
花園大学学長 磯田 文雄
学位記授与式の様子
学位記授与
磯田文雄学長による式辞
山本清文文学部長による贈る言葉
福富昌城社会福祉学部長による贈る言葉
卒業生代表による謝辞